Marry me ?
土門はコンビニの袋から、弁当を取り出した。
「教官、良かったら私のお弁当もつまんでくださいね」
小山内はキレイに詰められた弁当箱を土門のほうへ差し出す。
「そうか?じゃあ遠慮なく…」
土門は卵焼きを口に入れた。
「ん!お前、料理の腕が上がったんじゃないな?」
「お口に合いましたか?」
「ああ。上手い……2番目だが」
「教官?」
土門は苦笑した。
「小山内、そろそろ教官は止めてくれ。今の俺は刑事だ」
「あ、そうですよね。すみません。では、土門…刑事、2番目というのは?」
「俺の中で1番は決まっているんだ」
「もしかして、奥様ですか?」
「いや…。まだ“奥様”ではない」
「すみません、私はてっきり…。あの、以前のお弁当を作られた方では?」
「ん?まあな」
土門は、照れたように視線を逸らす。
「お前が作ったものや、既製品のような卵焼きじゃないがな。それでも俺には世界一なんだ」
「羨ましいです」
「そうか?」
「はい。もしかして、先ほどお話されていた腐れ縁の相棒って…」
「ああ。同一人物だ」
「やっぱり!公私ともによきパートナーなのですね」
小山内は、少しだけ淋しげだ。
きっと憧れのようなものだろう。
奪い取るなんて、大それた事は思わないし、できっこない。
遅い初恋の結末は、ほろ苦い。
それは、どんな料理上手でも、直すことはできないだろう。
昼休みが終わる間際に、土門は警察学校を辞した。
小山内は午後に実習があるため、屋上で別れの挨拶を済ませた。
「お元気で」
「君も」
「あの…」
「ん?」
「最後に呼んでもいいですか?」
「?………ああ、構わん」
「土門教官!ありがとうございました!!」
小山内の敬礼は、まるで手本のように美しかった。
土門は、素晴らしく成長した生徒と再会できたことを喜び。
晴れやかな笑顔とともに、その場を立ち去った。
もう二度と、この門をくぐることは無いかもしれない…。
立ち止まり、土門は感慨深く校舎を眺める。
そして今度こそ、断ち切るように踵を返した。
その足が向かう先は、ただ一つ。
相棒が待つ、土門の戦場。