中国茶寮oneでの出来事(番外編)





それから数日。
予想通り、二人の捜査にはストップがかかった。
公安からの圧力だろう。
どうにも進展が望めなくなったところで、ちょうど王から連絡が届いた。




二人はその晩、茶寮oneを訪れた。
園田によって王の自室に通される。
ただし前回とは違い、今日は園田もこの場に残ったままだ。

「事後承諾で申し訳ありませんが、彼女には事情を説明しました。この手の情報収集に彼女の存在は欠かせないので」

王の言葉に、土門もマリコもただ頷くだけだ。
王が秘書としてそばに置くなら、優秀かつ秘密の守れる女性なのだろう。

「まずはマリコさん、大変な目に遭いましたね。ケガがなくて何よりです」

「え?」

「お前、どうしてそれを…。まあ、いい。榊は無事だったが、こいつをターゲットにする卑劣なやり方は気に食わん」

「同感ですよ、ドラえもん」

「一言余計だ!さて、さっそく聞かせてもらおうか?」

「いいでしょう」

マリコを傷つける者は許さない。
珍しく意見が一致した男二人は、不敵に笑った。




「十数年前、警察庁がDNAデータベースの運用を開始しましたよね?」

「え?ええ…」

突然何の話だろうと、マリコは訝しげだ。

「どうやら、それの世界版を作ろうという動きが起きているらしいんです」

「待て。今でも、ICPOを介せば世界で登録されているDNAを調べることは可能なはずだ」

「そうです。ただ今回はより精度の高いもの、つまり犯罪記録のない人間のDNAも登録しようと計画しているんですよ」

「それって!」

「世界中の人間のDNA情報を一元管理しようとしているってことか!?」

土門とマリコは衝撃のあまり、声も出ない。

「そんなこと…許されるの?」

「当然、賛否はあるでしょう。ですが賛成派の急先鋒は、すでにデータベースの作成に暗躍していると噂されています。各国のDNAデータベース作成に関わった科学者に接触し、ひそかに協力者へ引き込もうとしているようです」

「……………」

マリコは黙って聞いている。

「協力に賛成した者はいいが、反対した者は……」

言いかける土門の声は低い。

「まさか……」

「その“まさか”でしょう。公にされてはいませんが、今回ニューヨークと北京の被害者二人は、自国のデータベース作成に関わっていたそうです。そしてなおかつ、一元管理には反対の意見を持っていたと、彼らの同僚は話していました」

「つまり協力者にならないなら、消す…ということ?」

「反対の芽は早めに摘んでおくに限るし、余計なことをしゃべらないようにという口封じの意味もあるんだろう」

「なんてこと!」

「日向寺博士はデータベースの作成に関わっていたのか?」

土門の質問に、ここまで沈黙していた園田が口を開いた。

「日本では、データベースの開発当初から全て極秘裏に進められていたらしく、そこまでは調べきれていません。実際に誰が関わっていたのか、知っているのはトップの数人だけのようです」

「ということは、もし日向寺博士が開発メンバーの一員だったとすれば、そんな上層部しか知り得ない情報までも、どこからか漏れているということか……」

「いずれにしても、日向寺博士が開発に携わっていたかどうかが鍵ね」

「できるだけ急いで調べます。もう少し時間をください」

丁寧に頭を下げる園田に、マリコは恐縮する。

「いいえ。こんな短時間にここまで調べてもらって、ありがとうございます。私たちだけだったら、ここまで辿り着けたかどうか……」

「確かにな。俺たちはもう一度、日向寺博士の周辺を調べよう。加賀野かがのとの接点ばかり気にして見落としていたことがあるかもしれん」

「そうね」

気づけば時刻はもう丑三つ刻に迫っていた。
明日の夜、もう一度報告し合うことを約束し、今夜はここで解散となった。


茶寮oneからはマリコのマンションの方が近い。
そのマリコの勧めもあり、土門はその晩の宿を彼女の隣と決めた。
二人とも疲れていたのだろう。
ベッドに倒れ込むと、すぐにそのまま深い眠りに落ちた。

もっとも。

マリコは土門の腕を枕に。
そして、土門はマリコ自身を抱き枕にして。




to be continued…



※加賀野亘…「科捜研の女 劇場版」に登場予定の科学者。佐々木蔵之介さんです(〃艸〃)


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