中国茶寮oneでの出来事(番外編)
情報が入手でき次第連絡をもらうという約束をし、この日、二人は茶寮を辞した。
王はしきりに食事を勧めてくれたが、今回は丁重に断った。
「これからどうする?」
「私は分析中のものがもうすぐ結果が出るの。それを確認しに戻るわ」
「そうか、それじゃあ俺は日向寺博士の実家を当たってみる。もしかすると、何か見つかるかもしれん」
「分かったわ。それじゃあ、後で!」
そういうと、マリコはくるりと土門に背を向ける。
「ちょっと待て」
土門はマリコの肘を掴んだ。
「なに?」
「送っていく」
「え?でも日向寺博士の実家に行くんでしょう?」
「別に約束している訳じゃない。お前を送ってから行っても問題はない」
「私、一人で帰れるわよ?」
マリコがそう言った時だ。
突然、一台のセダンが背後から猛スピードでマリコに迫ってきた。
「さかきっ!」
土門は自分の身を挺してマリコを庇い、そのままアスファルトの上を転がった。
すぐに起き上がった土門は前方を睨む。
しかしナンバーは汚され確認できない。
ただ黒い車体ということしか分からなかった。
「大丈夫か?ケガは?」
「ないわ。大丈夫よ……」
気丈に頷いているが、土門のジャケットを掴むマリコの指先は小刻みに震えていた。
土門は安心させるように、その手を強く握る。
「あいつは公安だ」
「え?」
「以前、佐伯本部長の部屋で見かけたことがある。確か…
「なに?」
マリコはすでに落ち着きを取り戻していた。
「土門さん。私はこれ以上、なに?」
問われる前から答えを雄弁に語る瞳に、土門は白旗を上げた。
「…いや。言ったところで頷くお前じゃなかったな」
「よく分かってるじゃない」
「何年そばに居ると思ってる?だが……」
土門は不意にマリコを胸元に引き寄せた。
マリコの耳に土門の心音が聞こえる。
一定のリズムを刻んでいるが、マリコのよく知るそれよりも今は随分と速い。
「お前のことが気がかりなんだ……分かったか?」
この動悸の原因はマリコだと、土門はいうのだ。
「こうなった以上、一人で行動することは絶対に避けろ。いいな?」
「ええ」
マリコは改めて土門の胸にそっと頬を寄せる。
静かに目を閉じると、しばらくその鼓動に耳を傾けた。