中国茶寮oneでの出来事(番外編)





足取り軽く帰宅したマリコは、リビングのソファでクッションを抱いたまま、とぐろを巻いた土門に迎えられた。

「た、ただいま?」

「……………」

「ど、土門さん??」

「何もされなかっただろうな?」

「え?」

ヤキモキしながらマリコを待ち続けていた土門は、ドスの効いた声でマリコを問いただす。

「王のヤツに何もされなかっただろうな?」

「されたわよ」

「なにっ!?」

目を見開いた土門は立ち上がると、マリコの腕を引き、逆にマリコをソファに押し倒した。

「キャッ!ど、土門さん!」

「何をされた?あいつ…許さん!」

「は、離して」

「暴れるな。上書きするまで離さん」

マリコの両腕を頭の上で束ねて固定する。
華奢な手首二本など、土門の片手で事足りる。

「待っ………………」

問答無用でマリコの首筋に顔を埋める土門。
マリコは足をバタつかせ、抗議した。

「もう!最後まで話を聞いて!」

「聞きたくもない」

「土門さん!」

「何だ!」

「……聞いてくれないなら、今夜は帰って!」

ひたっと土門を見据えた瞳は憤っている。
こんな瞳のマリコは本気だ。

「……………分かった。話してみろ」

仕方なく、土門はマリコの拘束を解いた。

「あのね……」

それからマリコは、今日一日の出来事を土門に語った。
捜査協力の代わりに王がマリコに頼んだデートとは、実は、静佳への贈り物を探すこと。
そして、自分の告白の立会人になることだった。
近くに居すぎて、どう気持ちを伝えればいいのか…王には分からなくなっていたのだ。
自分の気持ちを伝えることで、静佳が離れてしまったり、今の関係性が壊れてしまったりすることを懸念していた。

まるで、数年前の自分たちのようだとマリコは懐かしく感じた。
あの頃、あまりに長く心地よい関係を保ちすぎ、いざとなると一歩が踏み出せなくなっていた二人。
悩み、迷い、恐れ、それらを乗り越えてでも手に入れたかったのは…。
0センチの距離、だろうか?

「それで、二人はどうなったんだ?」

いつしか土門も真剣に、二人の行く末を案じていた。

「ちゃんと告白していたわよ。でも私、静佳さんの返事を聞く前に帰ってきたの」

「ほう!お前にしては気が利くな」

「一言余計よ!だってあの様子なら今頃は……」

何を想像したのか、マリコはほんのり頬を染める。

「どう?“あて馬”にはされたけど、上書きの必要はないでしょ?」

「確かにな。しかし、あいつの腹の内は読めんな…。まあ、お前にちょっかい出さなくなることは何よりだ」

「ちょっかい?私に?何のこと??」

「……いや。何でもない」

相変わらず。
何というか……。
よく考えれば、王より数倍もマリコの方が難解かもしれない。

「何よ。私には『何でも話せ』って言うくせに」

ムキになるマリコに、土門は少々悪い顔で笑う。

「そうだったな。それなら言わせてもらおう」

「どうぞ」

「上書きは中止する。その代わり。このまま……抱いていいか?」

「な、な、何てこと言うのよ」

「お前が言えと言ったんだろう?さあ、答えを聞かせてもらおうか?」

土門は改めて、マリコに覆いかぶさる。
鼻先がぶつかる程に。

「何でも言っていいのよね?」

「お、おう」

『まさか?』と土門は一瞬怯む。


「…………………………優しくして」


眼下の真っ赤な顔に、土門は骨折りならぬ、骨抜きにされてしまったようだ。

返事はもちろん……。
0センチの距離で伝えた。




fin.



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