中国茶寮oneでの出来事(番外編)





重く垂れ込めた薄曇りの空の下、二人は屋上にいた。
今日の二人からは、これまでのような甘い雰囲気は全く感じられない。
それどころか、土門は眉を潜め、マリコも強張った表情をしている。

それほどに、今二人が話し合っている案件は重大なのだ。


「今回の被害者、日向寺悟ひゅうがじさとるは博士号を持つ科学者だそうだ」

「え?まさか……」

マリコの脳裏に嫌な予感がよぎる。

少し前、数カ国で優れた科学者が同時に不審死を遂げる事件が発生した。
その凄惨な事件に巻き込まれたマリコには、まだ生々しく当時の記憶が残っている。

『今回もまさか?』、『もしかしたら?』と不安な思いは拭えない。

2週間前にニューヨークで、5日前には北京で。
そして今回は京都だ。
いずれも殺害されたのは科学者だった。
例の事件との関連を疑うなと言う方が無理だろう。

「奴はまだ刑務所の中だ。しかし、あの時捜査網をくぐり抜けた仲間がいた可能性も考えられる」

「…そうね」

「もし奴と関係があるなら、捜査妨害がかかるかもしれん。その前に少しでも調べを進めたいと思ったんだが、先の2件の詳細がまったくわからん」

「ICPOには?」

「もちろん問い合わせた。しかし届いた資料の中身は、現地メディアが発表しているのと同程度の内容しかなかった」

「すでに情報操作されているのかもしれないわね」

「ああ。可能性はあるな。以前の事件を知っている者なら、誰でも気づくだろう」

「ねぇ。いい方法があるわ」

「ん?」

マリコは白衣のポケットからスマホを取り出すと、素早い動きで画面をタップしていく。

「これでよし!」

「いい方法って何だ?」

「それは……………待って」

すぐに折返し着信音が鳴り、マリコはスマホに視線を落とす。

「協力してくれそうな人に連絡してみたの。良かったわ、会ってくれるみたい。土門さん、出かけましょう?」

「どこへ?」

「もちろん、協力者の所へ!」

マリコは土門の顔を見ると、ようやくにっこりと微笑んだ。



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