探しものは何ですか?
ラボの時計を見ると、ちょうど午後4時を回るところだった。
マリコは読み耽っていた資料から顔を上げると、誰にも何も告げず、そっと科捜研を出て行った。
向かう先は唯一つ。
先刻、マリコと宇佐見が一課をたずねたのは午後3時半。
そのときの土門のゼスチャー。
三本指は30分後。
そして一本指は、上…つまり屋上を意味していたのだ。
そして、その屋上の扉を開くと。
マリコの予想通り、すでに土門はいた。
「お疲れさん。報告書、急がせてすまんな」
「今日はそんなに忙しくなかったから、大丈夫よ」
「そうか。こいつは礼だ」
ポンと渡されたのは缶コーヒーと小さな包み紙。
「?」
「キャラメルだそうだ。土産にもらってな」
「土門さんから“アメちゃん”もらうの、久しぶりね」
懐かしいフレーズに二人で吹き出す。
「折角だからいだだくわ」
口に入れると、ソフトな食感のキャラメルはイチゴ風味。
「美味しい!」
「栃木の土産らしい」
「だからイチゴ味なのね」
「ほう、イチゴ味だったのか?どれ?」
「え!?」
誰の目もないことを確認した土門は、少々強引にマリコの唇を貪る。
潜り込んだ舌が、小さくなったキャラメルを挟んでマリコのそれと絡み合う。
「んぅ……」
マリコの唇から滴りそうな唾液を、土門の指が拭き取った。
「もう!こんな場所で…」
「誰も見てないだろう?」
「だからって!」
「我慢できなくなる、か?」
“ポポポ”っとマリコは赤くなる。
「そ、それは土門さんでしょう!」
「よくわかっているな。そういう訳だから、今夜は覚悟しろよ」
明日は休みだしな?と土門の瞳が妖しく光る。
「あ、そうだったわ!あのね、明日なんだけど」
「ん?」
「午前中、科捜研のみんなで出かけることになったの」
「みんな?」
「ええ。宇佐見さんと、亜美ちゃんと、呂太くんよ」
「何しに行くんだ?」
「うん。以前、宇佐見さんさんから聞いたオススメのお茶屋さんを巡ってみることにしたの」
「ああ、記憶のためか?」
「ええ。もしかしたら思い出すきっかけになるかも…って亜美ちゃんが言い出したの」
「そうか…。まあ、そういうことなら仕方がないな」
「ごめんなさい」
「謝る必要はない。俺はお前の部屋で帰りを待ってるさ」
「え?」
「どうせ片付けやら洗濯やらが溜まってるんだろう?」
「うっ…」
「お前が留守の間に、片付けておいてやる」
「あ、ありがとう。あの、でも、今夜……は?」
「もちろん」
そうやすやすと自分の腕から逃げることは許さない。
土門はもう一度、マリコを抱き寄せた。
「……………」
マリコは観念したのか、大きなため息を零す。
もっとも、マリコだって逃げるつもりはなかったのだが…。