Pseudo family





「まーちゃん!」

鑑定に夢中になっていたマリコは、そう呼ばれ驚いた。

「昊くん!?」

「まーちゃん、ごはんは?」

「え?」

壁時計は12時15分を過ぎていた。

「もう、こんな時間だったのね…」

「すみません、榊さん。お昼休みなら少しお邪魔できるかと思って……」

音無巡査は恐縮した様子で、マリコに会釈する。

「構いませんよ。昊くん、一緒にご飯食べようか?」

「うん、あみちゃんと、ロタもー!」

「そうね。じゃあ、みんなで行きましょう!音無巡査も一緒にいかがですか?」

「すみません。私は一度、生活安全課の方に戻ってもいいでしょうか?」

「もちろんです。別のお仕事もありますよね。こちらこそ、すみません」

「いえ。昊くん、またご飯の後でね」

「うん!」




マリコと手を繋いでご機嫌な昊を先頭に、食堂へ向かう通路を若手二人が後に続く。
メニューを選ぶと、マリコは空きテーブルを探した。

「あ!どーもさん!!」

昊は目ざとく、土門と蒲原のテーブルを見つけた。

「昊!いい子にしてたか?」

駆け寄ってくる昊を土門は抱き上げる。
どう見てもパパの姿に、蒲原は思わず口の中身を飲み込み……むせかけた。

「うん!してた。今からごはんー」

「そうか!残さず食べるんだぞ?」

「はーい」

「土門さん、ここ一緒にいいかしら?」

「俺たちはもう食べ終わったから、みんなで使ってくれ」

「ありがとう。さあ、昊くん。座って」

「うん。ねぇ、どーもさん…」

「ん?」

「……………」

昊は蒲原をじーっと見ている。

「おお、そうだったな。こいつは俺の友だちの蒲原だ」

「かん、ば、ら?」

「呼びにくいか?」

「かん、ば。かん…。……かんちゃん!」

「だそうだ、蒲原」

土門はニヤリと蒲原を振り返る。

「俺はいいですよ、“かんちゃん”で」

『どーもさんよりマシです』の一言は、辛うじて飲み込んだ。

「この子が噂の昊くんですか?」

「噂?」

「あ、いえ。何でも……」

蒲原は慌てて言葉を濁す。

昊の存在は、今や京都府警中の話題なのだ。

土門警部補に隠し子!?
お相手は…やはり榊研究員!!!

なんて、タイトルのメールがあちこちで飛び交っている。
このニュースに頷く者あり、凹む者あり、府警内では実に様々な人間模様が繰り広げられているのだ。



「昊、また後でな」

「うん。あのね、どーもさん。パンケーキ……」

「おう、いいぞ。作ってやる」

ぱぁっと昊の目が輝く。

「お風呂もー!」

そのワードにはさすがのマリコと土門もぎょっとする。
当人たちでさえそうなのだから、周囲の人間は完全に固まっていた。

「と、とにかく、後でな」

「え、ええ。後でね」

「行くぞ、蒲原」

土門は早足に去っていく。
その後を蒲原が追いかけて行った。



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