Pseudo family
翌朝、土門、マリコ、昊の三人組は。
……………どこをどう見ても親子連れにしか見えない。
三人が府警のエントランスに足を踏み入れた途端、周囲は騒然となった。
「土門。お前いつの間に子どもなんか……」
「水くさいじゃないか」
「やっぱり、相手は榊さんか」
三人を見かけた知り合いが、次々に声をかける。
あまりに人数が多いため、一人ひとりに説明するのが面倒になった土門は、適当に相槌を返す。
おかげで、署内は軽いパニックとなっていた。
当然、本人たちは知る由もないが。
「おはようございます」
土門と別れ、マリコが昊を連れて科捜研に出勤すると、亜美が走り寄ってきた。
「マリコさん、所長に聞きましたよ!昊くん、よろしくね。亜美ちゃんです」
亜美がお団子頭を揺らして、元気に挨拶する。
「あみちゃん?」
初めはマリコの後ろに隠れていた昊も、ひょっこり顔を出した。
「うん」
「亜美さん、ずるーい。僕も!昊くん、僕はロタだよ」
「ロタ?」
「うっ、呼び捨て…。まぁいいか」
若手二人はすぐに昊と打ち解ける。
「マリコくん、その子が昊くんかい?」
宇佐見と日野が連れ立って、ラボから降りてきた。
「そうです。所長、宇佐見さん、一週間よろしくお願いします」
「「よろしくね、昊くん」」
二人はにっこり笑って見せた。
「昊くん。こっちの背の高い人が宇佐見さん。こっちが所長よ。所長はね、ここで一番偉い人よ」
「ウサギさんと、しゃちょー?」
その場にいた全員が吹き出す。
「私はウサギさんでもいいですよ」
宇佐見は昊と視線を合わせると、何事か話しかけ、二人はいつの間にか握手までしていた。
「さすが宇佐見さん。こんな小さな男の子までたらしてる……」
「亜美ちゃん、聞こえてるよ?」
宇佐見のセリフに、亜美はそそくさと呂太の背中に隠れる。
「昊くん。社長じゃなくて、所長よ。ご挨拶しておきましょうね。お願いします、って」
「………します」
マリコを真似て、昊はちょこんと頭をさげる。
その様子に全員が笑顔になった。
「マリコくん、昊くん、こっちへ」
所長室へ呼ばれると、そこには一人の婦警がいた。
「生活安全課の音無巡査だよ。一週間、ここにいる間の昊くんの面倒を見てくれる」
音無巡査はマリコと昊にニコッと笑いかけた。
「音無ユキです。よろしくお願いします」
「榊です。この度は大変なことをお願いしてしまって、すみません」
マリコは心底恐縮して深々と頭を下げた。
「榊さん、そんなに気にしないでください。私、これでも保育士の資格を持っているんです。警察官になる前は数年だけですが、保育園に努めていた経験もあります」
「そうなんですか!?」
「はい。だから藤倉部長からお声がかかったのだと思います。榊さんがお仕事されている間は、責任をもって昊くんをお世話させてもらいます」
「ありがとうございます。安心だわ…」
「まーちゃん?」
「昊くん。私はこれからお仕事なの。分かる?」
「ママとおんなじ?」
「そう」
「……………」
途端に昊は悲しそうな顔をする。
「ごめんね。でも私の仕事が終わるまで、このお姉さんが昊くんと遊んでくれるわ」
「昊くん、こんにちは。ユキちゃんです」
音無巡査は膝を折ると、昊と同じ目線で一言ひとことはっきりと言葉にした。
「ユキちゃん?」
「そう。雪ダルマのユキちゃん。昊くん、雪ダルマ作ったことある?」
「あるよ!」
「ホント?凄いね!どんな雪ダルマを作ったのか教えてくれる?」
「うん!」
「雪ダルマのお絵かきしようか?」
「やる、やる!」
マリコのことなど忘れて、あっという間に昊は音無巡査とのお絵かきに夢中になる。
さすが元保育士。
マリコは昊を音無巡査に預け、自分の仕事に取りかかった。