Pseudo family
「君が昊か?」
「……………」
初めて会う人、しかも男性に警戒心を抱いたのか、昊は無言だ。
「昊くん。この人は私の友達よ。土門さん、っていうの」
「どーも…さん?」
「ちょっと違うが…ま、まあ“どーもさん”で構わん」
「ぷっ!」
マリコは吹き出すと、耐え切れずくすくすと笑いだした。
というのも、昊の持ち物の大半はお気に入りのキャラクターで揃えられていた。
そのキャラクターが、何か…ついさっきマリコは知った。
昊の大好きな公共放送のマスコットキャラクターと土門が、ほぼ同じ名前…。(“くん”と“さん”の差くらいだ)
マリコには、土門の顔が心なしか長方形に見えた。
「お前は、笑いすぎだ」
土門はへの字口だ。
「どーもさんと、まーちゃん?」
「え?いいわよ。私は“まーちゃん”ね。で、土門さんは“どーもさん”ね」
「……………」
わざわざ再確認するなんて、いい性格だと土門の眉が跳ね上がる。
「榊、覚えておけよ」
「ねー、ねー、どーもさん。パンケーキ作れる?」
土門のセリフにかぶさるように、昊が皿を示す。
「パンケーキ?」
「まーちゃんのパンケーキ、固い」
「くくくっ。昊、俺に任せておけ!ふんわりパンケーキを作ってやる」
「ほんと!」
昊の目が期待に煌めく。
「おう!ちょっと待ってろよ」
「うん!」
マリコに比べて遥かに手際の良い土門は、あっという間にパンケーキを焼いた。
昊の前に並んだ皿には、甘い香りの立ち上るふっくらとしたパンケーキが乗っていた。
「いただきまぁす」
パクっと一口齧ると、昊の目がみるみる大きくなる。
「おいしー!」
「そうか、良かった。沢山食べろよ?」
「……………」
昊は返事も忘れて食べ続け、あっという間に皿は空になった。
その夜は本人たっての希望で、昊は土門と風呂に入った。
浴室からは、はしゃぐ昊と楽しそうな土門の声が聞こえた。
父親との触れ合いが少ないからか、土門のことを昊はとても気に入った様子だ。
風呂から上がり、ベッドへ行けといっても聞かず。
結局ソファに座った土門の隣で丸くなり、熟睡してしまった。
「寝ちまったな…」
土門は昊を抱き上げると、ベッドへ運んだ。
「ありがとう」
「いや。子どもとはいえなかなかの重さだからな。お前には大変だ」
「楽しそうで良かったわ。これも“どーもさん”のお陰ね」
「お前なぁ…」
『いいかげんにしろ!』とマリコは口を塞がれる。
「榊、今夜はこのまま泊まっていっていいか?明日、昊と一緒に府警まで送る」
「助かるわ。でも……ソファしかないけど?」
申し訳なさそうなマリコに、土門は笑って頷く。
「もちろんそのつもりだ。一週間は自粛だな…イロイロと」
赤くなったマリコの頬を軽く撫でると、『おやすみ』と土門はソファに身を横たえ、目を閉じた。
「おやすみなさい」
マリコがパチンと壁のスイッチを切ると、部屋は暗闇に包まれた。