Pseudo family
「榊、お前はどうするつもりだ?」
藤倉の声に、マリコは意識を引き戻される。
「預かろうと……思います」
「……………」
藤倉は黙ったままだ。
「仕事はリモートで参加します。一週間だけ……駄目でしょうか?」
「所長はそれで問題ないのか?」
藤倉は日野に確認を求めた。
「正直、マリコくんの不在は大きいです。でも一週間だけなら…。リモートで対応できない所は、何とか私たちでカバーできるようにしたいと思います」
「ふむ。子どもを預かって、榊が出勤できれば何の問題も無いわけだな?」
「え?それは、そうですが……」
日野は戸惑った表情で、マリコと顔を見合わせる。
「それなら、榊。子連れで出勤すればいい」
「はっ?」
思わずマリコは聞き返す。
「一週間、子どもは府警で預かることにする」
「い、いいんですか?」
「助けを求める府民に応えるのが我々の職務だ。とはいえ、今回はあくまで特殊事例だぞ?」
「部長…ありがとうございます!」
「何より子どものためだ。お前が一週間、一人で育児ができるとは到底思えん。ここにいる間は、世話係として婦警を一人付ける。日中は仕事に集中しろ。勤務時間以外は…」
「わかっています。私が責任を持って預かります」
マリコはうなずいた。
藤倉の指摘はもっともだった。
マリコ自身も本当は不安を感じていたのだ。
これまで、ほとんど子どもとの接点はなかった。
そんな自分が一週間も、一人で面倒を見れるのだろうか…。
だから、藤倉の申し出は純粋にありがたかった。
「そうと決まれば、母親に連絡してやれ。待っているんだろう?」
「はい!失礼します」
マリコはスマホを片手に、急いで部屋を出ていった。
「部長、宜しいんですか?」
「あいつらも、そろそろ予行練習くらいしておいた方がいいだろう?」
“ふっ”と笑う藤倉の真意に気づいた日野は、目を丸くする。
しかし何も言わず、日野もまたその場を辞した。
――――― 見守る。
立場は違えど、自分の部下の行く末について。
いつからか二人の心には、同じ思いが芽生えているようだった。