Pseudo family





翌朝、マリコはいつもより早めに出勤した。

「おはよう」

欠伸まじりに挨拶する日野を、待ち構えていたマリコが所長室へ押し込む。

「な、なんだい、マリコくん」

「所長、相談があるんです」

「な、な、な、なに?」

日野は明らかに動揺している。
マリコのことだ。
何か良くない事かもしれないと、身構える。

「実は………………」



「うーん。それは僕の判断を超えているね」

「では、どうすれば?」

「藤倉部長に聞いてみよう」

連れ立って、部長室へ向かう。
ノックをすると、すぐに藤倉の声が返った。

「「失礼します」」

日野、マリコの順に入室する。

「二人して、何の用だ?」

「はぁ…。実は、ですね」

日野は先ほどマリコから受けた説明を、かいつまんで藤倉へ伝える。
その上で、許可を求めた。

「つまり、こういうことか?」

美咲からの頼まれごととは、子どもの世話だった。
美咲には4歳になる息子がいる。
名前はそら
言葉を濁していたが、父親とは現在交流がないようだ。
これまで美咲は、働きながら一人で昊を育てて来たらしい。
日中は無認可の保育園に預けていたのだと言う。
しかし仕事の都合で、どうしても来週一週間ほど出張しなければならなくなってしまったのだ。

「会社に掛け合って、別の人にしてもらうことはできないの?」

そうたずねたマリコに、美咲は爆弾発言をした。
会社に子供のことは隠している、と。

子どもがいると分かれば、雇ってもらえない。
それでは親子二人、露頭に迷うことになる…。
それだけは何としても避けたいと、美咲は苦渋の決断をしたのだ。

『だから、子どもを理由に出張を断ることはできないのよ……』

そこで一週間、マリコに子どもを預って欲しいというのだ。

『民間の保育施設があることも分かってる。それでもマリコに頼んだのには理由があるの。息子…昊には喘息があるのよ』

「喘息?」

『そう。ごく軽いものなんだけど、時々夜に発作を起こして、病院へ連れて行くこともあるの。そういう基礎疾患のある子どもを突発的に預かってくれるところはなかなかないのよ…。その点もマリコなら安心だし。ねえ、マリコ。虫のいい頼み事だってことはよく分かってる。あなたの仕事が忙しいことも。でも、でもね………』

そういって、電話の向こうで言葉に詰まる友人の様子をマリコは思い返していた。



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