Pseudo family
仕事を終え、マンションをおとずれた土門が目にしたのは、泣きはらした顔のマリコだった。
土門は何も言わず、ただじっとマリコを抱きしめた。
やがてマリコの求めるままに頬を撫で、口づけを交わす。
マリコは土門を寝室へ導くと、二人はもつれるようにベッドへ倒れ込んだ。
マリコはいつにも増して土門を求めた。
喘ぎ声に混じるのは、こらえきれない泣き声だ。
それが聞こえるたび、土門はマリコをきつく抱きしめた。
マリコの心の空虚を少しでも塞ぐことができるとしたら、それは土門しかいない。
そして、土門もまた同じだった。
たった数日だが、マリコと昊と過ごした時間は何ものにも変え難く。
昊の存在は、躊躇していた土門の背中を押した。
一つの決意を固めるための。
「淋しいか?」
土門の背中で、マリコはコクリと頷く。
土門はマリコへ向き直ると、その泣きはらした顔を隠すように抱き込んだ。
「今夜はもう眠っちまえ」
「うん……」
マリコは土門の鼓動を聞くうちに、知らず知らず眠りに落ちる。
やがて聞こえる小さな寝息。
土門はマリコの頬に残る涙の跡を拭き取った。
「今は、俺の腕だけで我慢してくれ。だがいつかは……」
もみじのような小さな手が、マリコの指をぎゅっと握る様子を想像して、土門は自然と微笑んだ。
そして、ベッド脇のサイドボードに無造作に乗せたままのジャケットに目を向ける。
その内ポケットには、ビロードの小箱が隠されているのだ。
――――― どのタイミングで渡そうか…。
マリコの寝顔を眺めながら考えているうちに、土門自身の瞼も落ちていく。
二人はまだ知らない。
マリコと土門と、そして…。
再び、川の字で眠る未来はもうすぐそこだ。
fin.
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