First Kiss
2月1日、マリコは偶然渡り廊下である人物と立ち話をした。
その人物は捜査ニ課の刑事で、土門ほどではないが、それなりにマリコは親しくしていた。
「え?異動…ですか?急ですね」
「はい。仕方ありません…」
彼は、新しく創設される部署へ異動することになったと、マリコに告げた。
もちろん栄転にはなるのだが、やはり顔見知りの人間が減るのは寂しい。
「榊さんには、大変お世話になりました」
「いいえ、こちらこそ…。あの、お元気で」
「ありがとうございます」
そういって、彼はペコリと頭を下げると去っていった。
このとき、マリコは考えた。
少し前に土門は異動先から戻ってきた。
けれど、また彼と同じようにここから居なくなる可能性はゼロではない。
ましてや、土門のように経験豊富な捜査員はどこででも引く手あまただろう。
『また、会えなくなるかもしれない?』
そんなこと、マリコには想像すらできない。
もしまたそんなことになったら…。
自分はきっと、これまでのように科学に向き合うことはできないだろう。
迷いと恐れが先立って。
改めて考えてみれば、ずっとそばに居る、ということは当たり前ではない。
この地球上に何億といる人々の中で、ただ一人。
いつも自分を理解してくれる、そんな人に出会えるのは奇跡に近い。
マリコは思った。
「ずっと土門さんと一緒にいたい」と。
ただこの時は、その思いの名前までは……マリコは到達できずにいた。