First Kiss
今から一月前。
土門はマリコからチョコレートをもらった。
なぜならバレンタインデーだったからだ。
例年と同じように。
「はい、土門さん」
ポン、と渡されたのは、市販のチョコレートだ。
だが、今思えば。
これまでと違うこともあった。
それは、わざわざ屋上に呼び出されたことだ。
ここ数年は科捜研に顔を出した際、亜美と一緒に渡されることが常だった。
そしてもう一つは。
渡されたチョコレートが明らかに高級品だったことだ。
包装紙には、土門でさえ聞き覚えのある店名が印字されていた。
しかもそれは、バレンタインに数量限定販売されたものらしい。
一課に戻った際、土門の手にあるチョコレートの箱に気づいた女性捜査員に指摘された。
なぜ、土門が今になってそれらを気にしているのかというと。
バレンタインデー以来、マリコの様子がおかしいからだった。
名前を呼べば返事はするが、目を合わせようとはしない。
視線を感じて振り返れば、すっと顔を逸らすマリコがいる。
夕飯に誘っても、なんだかんだと断られ。
ついには、現場から洛北医大まで送ろうとした土門の誘いを断り、わざわざ別の捜査員の車に乗り込むという始末。
『もしかして、嫌われたか?』
土門はずーんと落ち込んだ。
マリコと出会って十数年。
流れる年月の中で、土門にとってマリコはかけがえのない存在になっていた。
それでも、この気持ちは一生報われなくてもかまわないと思っていたし。
万一、マリコが他の誰かと添い遂げることになったとしても、笑って祝福できる自信もある。
でも、嫌われてしまったら…。
――――― もう傍にいられない。
それは、土門に予想以上の衝撃をもたらした。
だから土門はある決意をした。
幸い、バレンタインデーには対となる日がある。
その日、つまりホワイトデーの今日、何某かの決着をつけるべく、土門は早朝の科捜研に足を踏み入れた。
まだ誰も出勤しておらず、辺りは静まりかえっている。
土門はマリコのデスクにある物を置いた。
そして、その足を捜査一課へと向けた。
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