クッ〇パッドには載ってない練乳レシピ
今日は猛暑日になるでしょう、と言われても、猛暑日かそうでないかなど、もう関係ない。
………暑い。
そう、とにかく毎日暑すぎる……。
『今夜、行ってもいいか?』
スマホにポップアップ画面が表示される。
「ちょうどええな…」
アリスはOKの返事の代わりに、
『ロックアイス買うてきてなー』
と返信した。
6時をまわったころ、インターフォンが来客を告げる。
鍵を開けると、熱気のこもった空気とともに火村がやって来た。
「おー、お疲れやなセンセー」
「ご所望のロックアイスだ」
「おおきに!」
火村からスーパーの袋を受けとると、急いで冷凍庫へ放り込む。
「この部屋は天国だな…」
灼熱地獄からやってきた火村は、手で首筋の汗を拭う。
アリスは火村にタオルを渡し、続けて、麦茶を注いだコップを目の前に置いてやった。
「気が利くな」
ぐびぐびと飲み下すたびに、大きな喉仏が上下する。
思わず目を奪われていたことに気づき、アリスは慌てて視線を外した。
「ところで、なんでロックアイスが必要なんだ?製氷機が壊れたのか?」
「ふっふっふっ。実はな……」
これや!と、アリスはテーブルにどんっと箱を置いた。
『自宅でふわふわのかき氷が作れる!電動で楽チン♪』
アリスはそう書かれた箱の中からかき氷機を取り出す。
「この前カタログギフトで頼んだやろ?昨日届いたんや」
アリスは期待に満ちた顔で、いそいそとセッティングを始める。
「ほんとはなー、おかんとこにあった、手動でバンドル回す度に目がキョロキョロ動くクマちゃんのが良かったんやけど……もうないねん…」
一瞬、懐かしむような目をしたアリスだったが、“まっ、味は同じやし…”と言いながらキッチンから皿とスプーンを持ってきた。
「シロップは?」
火村の問いに、ニヤリと笑うと、冷蔵庫からパウチを取り出す。
「最近はいろんな味があんねんなー。まぁ、俺は王道一筋や!」
またまた、どんっと置かれたのはいちごと抹茶の2本。
それと使いかけの練乳。
「ふむ。まぁ、無難なセレクトだな」
「じゃ、いくで。スイッチオン!」
稼働始めはガガガーとすごい音がして、壊れるんじゃないかと二人して機械を押さえてしまった。
しかししばらくすると、パラパラと雪が降るように削られた氷が皿の上に盛り上がる。
「火村はどっちの味がええ?」
「アリスと違う方にするか」
「んじゃ、抹茶でええか?」
「ああ」
それぞれの氷に、シロップをたっぷりと回しかける。
「「いただきます」」
うたい文句のとおり、氷はふわふわで舌に乗せるとすぐに消えていく。
「上手いな」
「おう!なぁなぁ、抹茶も一口くれん?」
「ほら」
雛鳥のように口をパクパクさせて待つアリスに、苦笑しつつ火村がスプーンを近づける。
あーんと開いた口の奥、アリスの舌はいちごシロップでピンク色に染まっていた。
唇から少しだけその舌がのぞき、スプーンの裏側に食らいつく。
ゆっくり、残さず舐めとるその動きに火村は目を細めた。
「ん!抹茶もうまいっ!」
満足そうなアリスの顔を一瞥し、火村は練乳へ手を伸ばした。
残りの抹茶かき氷にたっぷりと練乳を絞りかける。
「アリス、練乳かけたのも食べるか?」
スプーンを差し出すと、キラキラした瞳でパクリと食いつく。
その瞬間、火村がスプーンの柄を引いた。
かき氷はすでにアリスの口のなかに消えていたが、飲み込めなかった練乳が口の端からつぅーと伝い下りていく。
火村は思い描いた通りのみだらな光景に、ほくそ笑みながらアリスの下顎に唇を寄せる。
そして口端に向かって、練乳を辿るように舌で舐め上げていく。
「ん……」
生温かい感触に、アリスが声を漏らす。
それに気分をよくした火村の舌は、どんどん大胆でイタズラな動きを始める。
見せかけだけの抵抗は火村に封じられ、アリスはそのままソファに沈められた……。
アリスが目覚めたとき、テーブルにはただの色みずと化したかき氷が残されていた。
もったいないなぁ、とぼんやり思う。
しかし、その隣に不恰好に潰れた練乳のチューブが転がっているのを見て、先ほどまでのことを思いだし、アリスは顔が火照るのを感じた。
体が所々ベタついている……それは火村に付けられた赤い痕と重なっていた。
「アリス。起きたのか?」
ベランダから戻った男は嗅ぎなれた香りをまとってアリスに近づく。
「シャワー浴びたいんやけど?」
言外に、連れていけ、と訴える。
火村のせいで倦怠感が酷く、指を動かすのさえ億劫だ。
「後でな」
そういうと、火村はアリスの首筋に顔を埋め、匂いをかぐ。
「何しとるん?」
「まだ甘い香りがする………美味そうだな、アリス」
とてつもなく魅惑的な声だが、告げられた内容にアリスは必死に首をふる。
「も、もう無理やて」
堪忍して……と懇願するアリスに煽られて、火村は再びアリスを快楽の渦に突き落とした。
翌日、練乳のチューブはごみ袋行きとなり、届いたばかりのかき氷機は箱に入れられ、押し入れの奥にしまわれることとなった。
そして、その片付けをさせられた火村の頬には、まだうっすらと赤い手のひらの痕が残っていた。
「さかりすぎや、アホっ!」
fin.
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