檸檬爆弾





三度鳴るノックの音。

「入れ」

「失礼します」

土門を先頭に、マリコ、日野と続く。

「朝一番からすまないな」

「いえ」

「これが手紙だ。お前宛のな」

そういって、藤倉はマリコヘハンカチに包んだ手紙を手渡した。

今回はきれいなままの白い封筒で、切手も消印もない。
当然、裏側も真っ白だった。

「直接投函したんですか?」

「そのようだ。今、涌田に防犯カメラをチェックさせている」

マリコは手袋をはめると、封を開け、中身を取り出し、ゆっくりと開いた。


『榊マリコさん。
僕はあなたに嫌われてしまったようですね。
それはとても悲しいです。
これ以上、あなたに嫌われたくありません。
だから、最後に一つ。
願いを聞いてください。
あなたと会って話がしてみたいんです。

僕には時間がありません。
どうか、どうか、お願いします。』


「やはり会いたいときたか……」

土門は苦い表情を浮かべる。

「時間がない、というのはどういう意味かしら?」

「どこか…例えば、海外へ引っ越すとか?」

「あるいは、命の期限が迫っているか……」

藤倉は便箋の下方を指差す。

そこには小さく病院名が印字されていた。

「これは!?」

皆がその文字に注目したとき、日野の携帯が鳴った。

「すみません!……もしもし?亜美くん、何かわかったかい?……うん、…うん、……そう、皆に伝えるよ」

日野は通話を着ると、自分を注目している三人に向かい合った。

「府警の防犯カメラに、昨夜封筒を投函する人物が映っていたそうです。さすがに顔は隠していて分からないそうですが、その人物は車に乗って立ち去ったそうです。そして、その車体には……」

日野はマリコが広げたままの便箋に目を向ける。

「この病院名が書かれていたそうです」

「今まで証拠を残さないよう慎重に行動していた犯人だ。これはわざとだろうな」

「そこまでしてマリコくんに会いたいということでしょうか?」

「………榊、どうする?」

藤倉はマリコを見る。

「私は……」

「自分は反対です!」

マリコを遮り、土門が口を開く。

「土門さん!」

「お前、この病院へ行くつもりだろう?俺は反対だ。どんな危険があるか分からないところへ行かせる訳にはいかない」

「だったら、どうするの?犯人は私に会いたいと言っているのよ。私の顔を知っているでしょうし、替え玉は使えないわ」

「………………」

「それに、これまでのように爆弾を用意しているかもしれない。もし、病院で爆発事故が起きたら…。そんな危険な賭けをするつもり?私が行けば、少なくとも時間は稼げるはずよ」

「榊の案の方が現実的だな」

判断を下したのは藤倉だ。

「土門、お前は榊を守り抜く自信がないのか?」

「部長……」

「犯人を確保してこい。そして、榊も守りぬけ。これは命令だ」

「……………はっ」

土門はぐっと思いを飲み込み、浅く礼をした。



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