ニューヨークからの客人
もともと親戚の法事のために一時帰国をする予定だった相馬は、帰省の準備を進めていた。
お土産や、仕事の資料など、荷物になるものは空輸を使うつもりでダンボール箱に詰め、デスクの隣に置いてある。
そこへ、一人の女性がやってきた。
彼女は相馬の研究チームの同僚で、
日系の彼女は日本語も堪能で、相馬とはよく話す仲だ。
ただ、一つ問題なのは。
彼女が相馬に気がある、という点だった。
普段なら「俺ってやっぱモテるわ♪」くらいにふてぶてしい相馬も、希沙良のあまりのしつこさには辟易しだしていた。
最近ではストーカーまがいのことまでされている気がする。
だから帰国の理由についてしつこく問いただす彼女に、相馬は宣言したのだ。
自分は日本に婚約者がいて、これから会いに帰るのだ。
諦めてくれ、と。
「who!」と強く詰め寄る希沙良に、相馬は思わずデスクの上に飾っていた科捜研時代の写真を指差した。
「彼女だよ」と。
――――― そう。
その人差し指が指していたのは、誰であろう。
マリコだったのだ。
「それで、何で榊と結婚する必要がある?」
土門は納得いかないと食い下がる。
「それが……。明日、来るんっすよ」
「来る?誰が?」
今度はマリコが問い返す。
「希沙良・ウォルフっす!」
「「「ええー!?」」」
複数の驚きの声が被る。
「だから、マリコさん!この通り。俺の婚約者になってください!」
相馬はテーブルに額を擦りつけんばかりに、深々と頭を下げる。
「断る。それはお前の問題だ。榊を巻き込むな」
「分かってます、分かってますけど…。彼女、DNA研究ではかなり名の通ったスペシャリストなんすよ……」
「そうなの!?」
食いついたのは、もちろんマリコ。
「マリコさん、会ってみたくないっすか?」
ちらり、と相馬はマリコを見る。
「会ってみたいわ!」
「おい、榊!」
「んじゃ、決まりっすね。マリコさんは俺の婚約者のフリをして希沙良に会ってください。その時、色々話を聞くといいっすよ」
「分かったわ」
大きく頷くマリコに、土門はため息をつくしかない。
「勝手にしろ!」
土門は一人、科捜研を出ていってしまった。
「これは……………」
声を潜めたのは亜美。
「……………嵐の予感、ですね」
宇佐見の言葉に日野と呂太までもが頷いた。