ニューヨークからの客人
「相馬涼、ただ今帰還しましたぁ!」
ゴロゴロとスーツケースを転がす音もけたたましく、科捜研のパブリックスペースに乗り込んできたのは、かつての物理研究員だった。
「相馬くん!?君、どうしたの?」
「所長〜。久しぶりっすね。おっ?ちょっと痩せました?」
「分かるかい?実は500g減って…じゃなくて!」
「あら?相馬くん!」
日野と相馬の掛け合いに、マリコが研究室から顔を出した。
すると。
「マリコさん!」
相馬は階段を駆け上がり、マリコに向かって一直線。
「え?」
のけぞるマリコに、相馬はがばりと抱きついた。
「マリコさん、何も言わずに俺と結婚してください!!!」
――――― ぐいーっ!
「?」
――――― ガタガタ!
「え!?」
――――― ごろん。
「痛ってー!」
「冗談も大概にしろ」
床に倒れ込み、背中をさする相馬の眼前に立ちはだかったのは土門。
冷ややかな視線は、おそらく温度計では測れないほどに冷たい。
「ちょっと土門さん、やり過ぎよ。相馬くん、大丈夫?」
ふんっ!と土門は鼻を鳴らす。
やり過ぎどころか、やり足りないくらいだというのが本音だ。
「土門さん、いたんすか?」
「いたら悪いか?」
「久しぶりに会ったのに、機嫌悪いっすねー」
「誰のせいだ?」
「ハハハ……」
相馬の目が泳ぐ。
「相馬くん。どういうことかちゃんと説明したほうがいいと思うよ」
「宇佐見さん!」
相馬に差し出された救いの手。
「さあ、お茶を入れるから」
「あざっす!」
相馬はまるで子犬のように、宇佐見に、いや、彼の入れるお茶を求めてパブリックスペースに戻っていった。
「ったく、あいつは一体何なんだ?」
「さぁ?」
「『さぁ?』じゃない。お前も注意しろ」
「え?」
「相馬だって男だ」
「やだ、土門さん!あの、相馬くんよ?」
「どの相馬だろうと、お前に抱きつく時点で俺には敵だ」
「ち、ちょっと!土門さん、こっち……」
これ以上の会話を聞かれたくなくて、マリコは土門を部屋に引っ張りこむ。
「皆の前でそういうことは言わないで!」
「だったら、気をつけると約束しろ」
「分かったわ。ちゃんと約束するから」
「……信用できんな」
「もう!どうすればいいのよ!」
「こうしろ」
「ちょっ………」
キャビネットの裏に押し付けられたマリコが土門に何をされたのか?
そこはご想像にお任せしよう。
さて。
お茶の準備が整うと、土門を含む全員が集合した。
「で、相馬くん。なんでマリコくんにあんなこと言ったの?」
「聞きましたよ!マリコさんに求婚したんですか?」
外出先から戻ってきた亜美と呂太も興味津々といった顔だ。
「いや、それがさぁ……」
相馬は数日前の出来事を話し始めた。
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