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――――― 数年後。

翼は久しぶりにマリコへ電話をかけた。


「お久しぶりです、マリコさん」

もう、マリコ先生は卒業だ。

『翼くん!元気でやっている?』

「ええ、お陰さまで。仕事も順調です」

暫く挨拶と懐かしい会話を続けた後で、翼はおもむろにたずねた。

「そういえば、マリコさん。あの時、土門刑事から何を言われたんですか?」

『ええ!?』

何となく想像はつくが、翼はずっと聞いてみたいと思っていたのだ。

「僕には聞く権利があると思うんですけど?」

『……………』

確かにそうだ。
マリコは「うーん」と唸りつつも、渋々語りだした。



西日の差し込む病室で、手を触れ合わせ、マリコは土門の言葉を待っていた。

「榊、結婚してくれ」

ストレートな一言。

「……………え?それだけ?」

「なんだ、不満か?」

「だって……」

じーっとビームを飛ばすマリコに、土門は苦笑する。
片手を伸ばし、マリコの腰を抱き寄せた。

「この命尽きるまで、お前と共に在りたい。榊、傍にいてくれ…愛してるんだ」

これでどうだ、とばかりに土門は甘い言葉を並べた。
ところが…。

「いやよ!まるで私より先に逝くみたいな言い方だわ」

こんなときまで、小憎らしいことを言うマリコ。
でもそれがマリコであり………。


「今ならOKするんじゃなかったのか?」

「でも………」

「“でも”も“だって”もない。黙って頷け。肯定以外の返事は受け付けない」

「そんなの…ズルいわ!」

「ズルくない。俺の傍にいろ!」


そしてそんなマリコが、土門はたまらなく愛しいのだ。

「いいな?………マリコ」

「!?」

返事をするより前に、強引にその唇は塞がれる。
本当は、改めて返事を聞く必要などないのだ。
肯定以外の返事なんて、あり得ないのだから……。




『もう、恥ずかしいこと思い出させないで』

声だけでも、マリコが赤面している様子が目に浮かんだ。
「ハハハ」と翼は穏やかに笑う。
そして、この電話の本来の目的である祝いの言葉を伝えた。

『ありがとう、翼くん。あなたには本当にお世話に………あっ!』

「どうぞ、行ってあげてください。マリコさん、また」

『ええ、また。ごめんなさいね………』

慌ただしく切れた電話の向こうからは、天使の泣き声が聞こえていた。




今度こそ…fin.



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