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「榊、座れ」

土門はベッド脇の椅子を、顎をしゃくってマリコに示す。

マリコは言われた通り腰を下ろした。

「話ってなに?」

「榊、俺が今、お前にプロポーズしたらどうする?」

「え?」

「受けるか、断るか…どっちだ?」

「そんな……突然。されてもいないのに、分からないわよ」

「なら、してみてもいいか?」

「いま?」

「いま」

「ここで!?」

「ここで」

「いやよ!」

「なぜだ?」

「なぜって、もう少し雰囲気とか……」

「ほぅ。さすがのお前もそういうものを求めるんだな」

「どういう意味よ!もう!今、プロポーズされたって絶対にOKしないわよ!」

「いつならいいんだ?」

「土門さん?」

「いつならいい?いつなら首を縦に振ってくれるんだ」

「………本気なの?」

マリコは目を見開く。

「ああ。今度のことで分かった。俺自身だけでなく。考えたくはないが、万一お前の身に何かあったとしても、今のままでは俺はお前の傍にいることすらできない。そんなことになったら…俺は自分を許せない」

土門は手のひらを握りしめ、ぐっと力をこめた。
またしてもあの若造にやられた。
もっと早く、自分で気づくべきだったのに。
土門はうっすらと涙の跡が残るマリコの顔を見つめる。

本当に。
本当に、こいつの前では形無しだ……。



「土門さん……」

マリコは立ち上がり、土門の手をとった。

「前言撤回よ」

「榊?」

「今なら……。今なら、OKしてあげるけど…どうする?」

「考えるまでもないな」

土門からマリコへ贈られた言葉。
それはマリコだけの一生の宝物。
だから、内緒だ。

ただ、西日の差し込む病室で。
床に長く伸びる影は、長いこと一つだけだった。



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