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「もしもし、科捜研!」
昼下がりのまったりとした空気の中、日野はものぐさげに一本の電話を取った。
ところが…。
「え!?ほ、本当ですか?分かりました!」
慌てて受話器を置いた日野は、大声で自室にいるマリコを呼んだ。
「マリコくん!マリコくん!!」
何度目かに、ようやくマリコが顔をのぞかせた。
「どうしたんですか、所長?」
「大変だ、マリコくん!土門さんが被疑者と揉み合いになって、怪我したって!」
「え…!?」
「私たちの所には何も連絡がないですよね?」
宇佐見は出動の要請がないことを訝しんでいた。
「聞き込み中に、窃盗犯と遭遇したらしい。そこで揉み合いになった末に、土門さんが…」
「所長!病院はどこですか!?」
「警察病院だよ!」
「私、行ってきます!」
白衣を捨て去るような勢いで、ハンガーへ投げかけると、マリコはその足で科捜研から走り出して行った。
「所長、いいんですか?」
「止めたって聞かないよ」
日野は諦めたように言うと、自分の部屋へと戻っていく。
「いえ。マリコさん一人で…大丈夫でしょうか?」
そんな宇佐見の呟きは誰の耳も届いてはいなかった。
マリコは息をきらせて、ナースセンターに駆け込んだ。
「あの、土門刑事の容態は!?」
「失礼ですが、あなたは?」
「私は…榊マリコといいます」
「患者さんのお身内の方ですか?」
「あ…、いいえ」
「今はICUで治療中なので、ご家族の方しか面会はできません」
「ICU…そんな」
マリコの顔に暗い影が差す。
今すぐにでも顔が見たい。
できるなら手を握って、体温を感じて、励まして…。
「土門さん…」
…傍にいたいのに。
マリコはどうすることもできないジレンマと、押しつぶされそうな不安に、その場にしゃがみこんでしまった。