結
毎年、年末年始に向かうこの時期は窃盗や暴行など、犯罪件数が増加する。
そのためマリコたち科捜研も、クリスマスだからといって休みを取ることはほとんどない。
ただ今年は、年内に溜まった有給を消化するよう藤倉刑事部長から署内一斉に通達が下りた。
特に、『捜査一課』、『科捜研』と名指しされ、いつもは穏やかな日野も目を釣り上げてマリコに言い含めた。
思いがけず手に入れた休日をどう過ごすか……。
しかし、そんな心配は杞憂で。
同様に藤倉から名指しされた捜査一課、土門もまた休暇を厳命されていたのだ。
「榊、お前も明日休みか?」
24日の夜遅く、マリコにかかってきた一本の電話。
「ええ」
「俺も明日は休みになった。出かけないか?」
「あ、それなら行きたい場所があるの…」
マリコの提案に、二人は翌日の予定を相談し、待ち合わせの時間を決めた。
「それじゃあ、明日」
「ああ……」
電話を切ろうとして、マリコは土門の声の背後から、話し声や足音を聞き取った。
「土門さん、外なの?」
「いや。まだ仕事だ。明日休みな分、今日のうちにやらなきゃいかん仕事が山積みでな…」
もう時刻は11時半を回っている。
「そうなの…。お疲れさま。気をつけて帰ってね」
「……………」
「土門さん?」
「それだけか?」
「え?」
「一応、廊下の突き当りに移動して電話をかけているんだが?ちなみに、今は周りには誰もいない」
「……………」
今度はマリコが押し黙る。
「深夜まで仕事に励む恋人へ、何か優しい言葉はないのか?」
「た、例えば?」
「そうだなぁ。例えば、愛の告白とか……」
言いながらも、『あり得んな』と土門は苦笑する。
ところが………。
「ありがとう。明日な」
電話を終えると、土門は足取り軽く一課へと戻っていった。