想問歌





「本当にそれだけ?」

冷静に割り込んだのは周だった。

「榊さん、毎日あの時間に電話をしてきたのには、何か理由があったんじゃないですか?」

「どういう意味だ?」

「榊さんからの電話は、いつも決まって面会時間が終わる少し前でしたよね?」

「そうか?……そう言われれば」

「それはなぜですか?」

「……………」

マリコは答えない。

「私への“当てつけ”ですよね?」

「ちが……!」

マリコは弾かれたように周を見る。
その頬にはまだ涙の跡がくっきりと残っていた。

「そこまで露骨じゃなくても、私と土門さんの時間を邪魔したかった……違いますか?」

「……………」

その沈黙は肯定だろう。

「榊、お前………」

「ごめんなさい。私、帰ります」

暴かれた心の醜さも、涙で化粧の崩れた顔も。
全部隠したくて、マリコは顔を背ける。

「待って!まだ答えを聞いていません。榊さんは土門さんのことを、どう思っているんですか?」

「それは………」

「斎藤、もうやめろ」

土門はマリコを庇うように立ちふさがった。

「もう、こいつを追い詰めるようなことはするな」

「どうしてですか!土門さんは知りたくないんですか?榊さんの気持ち」

「それは………」

「そんなに榊さんが大切ですか?」

「…………………………ああ」

絞り出すような声が認めた。

「土門さんは榊さんのことを……?」

土門は瞑目する。

「この気持ちが何かと問われれば」

そして、開いた土門の視線が動く。
問うた周ではなく、その目は背後のマリコを捉えている。

「それは『恋』だと…俺は答えるだろう」

逸らさないし、逸らすことも許さない。
そんな力強い視線がマリコを射抜く。

「お前は?」

今度は土門がマリコへ問う。

「私は…………………………ごめんなさい」

「!?」

“ごめんなさい!?”
否定とも取れる、謝罪の言葉。
マリコへの想いは一方通行だったのかと、土門は一瞬息を止めた。



「ごめんなさい、斎藤さん。私は。私も……土門さんじゃなきゃダメなんです」

ーーーーー ふぅー。
漏れた息はもちろん土門のものだ。

「お前は!紛らわしい答え方をするな!」

マリコはきょとんとして、土門を見る。

この場の雰囲気に似合わなすぎるその表情に、くくくっと笑い声が漏れた。

「斎藤?」

「負けました!榊さんには敵わないわ……」

「え?え??」

マリコは訳が分からず、困惑している。

「そんなあなただから、土門さんは恋に堕ちたのかもね」

「は、恥ずかしいことを言うな!」

「だって、土門さんがそう言ったんじゃないですか?」

「そ、それは………」

詰まる土門に、またしても周はくくくっと笑う。

「土門さん、そろそろ検温の時間なので私は戻ります」

付き添うつもりの土門を、周は止めた。

「必要ありません。もう明日には退院できるでしょうし。それに」

周はちらりとマリコを見る。

「私にもプライドがありますから」

「斎藤………」

「榊さん、色々とごめんなさい」

「いいえ!とんでもないです……」

周は淡く微笑むと、屋上を後にした。



病室へ戻ると、ちょうど看護師が検温の準備をしているところだった。

「良かった。探しにいこうかと思っていたところよ」

「すみません」

「あら?彼氏さんは?さっきまで居たわよね?」

周は苦笑する。

「彼は……………ただの同僚です」

それが正しい答えだ。

周は明日、退院とともに岐阜へ帰ろうと決めた。
こんなときは、無性にふるさとを恋しく感じる。
馴染んだ町並みは、きっと。
何も語らず、周を癒してくれることだろう。




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