想問歌





聞き込みを終え府警へ戻ると、時刻は午後4時少し前だった。

「……………」

スマホを睨むように見ていた土門は、脱いでいたジャケットを羽織る。

「土門さん、どちらへ?」

「野暮用だ」

「私も一緒に……」

「必要ない」

土門はキッパリと周の同行を拒否した。

「蒲原、ちょっと出てくる」

「…………わかりました」

声をかけられた蒲原は、壁時計を確認し得心がいった。

そのまま土門は一課を出ていった。

「蒲原さん、土門さんはどこへ?」

周は慌てて追いかける準備を始める。

「ああ。捜査会議ですよ」

「どこでですか?」

「さあ?」

「え?」

「刑事なら、仲間にも秘密な情報屋もいるでしょう?」

「情報屋に会いに行った?」

「多分。恐ろしく優秀な情報屋でしょうね……」

なんたって目からビームを出すくらいの人ですから…、と蒲原は心の中で呟いた。





蒲原曰く、“恐ろしく優秀な情報屋”はすでに屋上にいた。
白衣の裾をはためかせながら。

「榊!」

振り返ったマリコの鼻先に、ずいっと缶コーヒーが突きつけられた。

「やる」

「ありがとう」

「いや。遅くなって悪かったな」

「いいえ………………」

「なんだ?」

先程から、マリコは土門の背後を気にしている。

「あの、斎藤さんは?」

「斎藤?あいつに何か用か?」

「あ、ううん。もしかしたら、一緒なのかと思って」

「そんな必要ないだろう」

土門の返答に、マリコは曖昧に微笑んだ。

「土門さん、斎藤さんとコンビを組んでるの?」

「気心が知れているからな。合同捜査の間だけだ」

「……そう」

「どうした?」

「ね。八条中央署の頃のこと、やっぱり懐かしい?」

「なんだ、藪から棒に……」

「うん……少し気になったのよ」

「まあ、それなりに長くいたしな。懐かしくないといえば嘘になる」

「ふーん」

「一体なんだ?言いたいことがあるなら、はっきり言え」

「言いたいこと、ね……」

含みを持たせたマリコの言い方が、土門は堪に障った。

「そうだ。いつもそう言ってるだろう!」

やや喧嘩腰で言い返せば、マリコは黙ってしまった。

「すまん……」

「ううん……」

短い沈黙の後、何となくギクシャクしたまま捜査の進捗について報告し合うと、土門は電話に呼び出され戻っていった。


「私だって言えるものなら言いたいわ。『一緒にいないで!』って……」

その言葉の意味にマリコは気づいているのだろうか…。

夕焼けに屋上が染まる頃には、そのマリコの姿もすでに消えていた。




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