土門さんは心配症
連日38℃越えの猛暑に襲われている京都。
普段は一日の大半を研究室で過ごすマリコにとって、午後2時という時間帯の臨場は予想以上に堪えた。
直射日光に晒され、腐敗の進み始めたご遺体は強烈な臭気を放っている。
しかし、マリコはそんな様子をおくびにも出さず、淡々と検視を進める。
一通りの作業を終えた時には、白衣の背中にまで汗が滲んでいた。
襟元の髪をかき揚げて、首筋の汗を拭う。
歩き出そうとして、一瞬めまいに襲われた。
焦ったマリコは意識を奮い立たせ、何とか科捜研のワゴン車までたどり着くと、車の日影部分に座り込んだ。
科捜研のメンバーはまだ作業中なのか、誰も戻ってはいなかった。
マリコは激しい疲労感と眠気から、自分が熱中症になりかけていることを感じたが、体が動かない。
「……どうしよう」
声になったのかも分からない独り言に、答えが返ってきた。
「心配するな」
抱きかかえられ、額と脇の下に保冷剤が当てられた。
ブラウスのボタンが外され、くつろげられた胸元から風が入り込んでくる。
「冷たくて……気持ちいい…」
そのまま、マリコは意識を手放した。
目を覚ますと、エアコンの効いた車内の後部座席に寝かされていた。
「マリコさん、気づきました?水分とれそうですか?」
亜美が前の席から心配そうに声をかけた。
「ええ。いただくわ」
マリコは経口補水液を飲みながら、亜美に『迷惑かけてごめんなさいね』と謝る。
「ぜんぜんですよー。ずっと土門さんが付き添ってくれてたんですよ」
「土門さんが?」
「はい。ついさっき私の作業が終わったので、交代したんです…まぁ、こんな姿のマリコさんを男性陣には任せられませんからね」
「?」
「おい、涌田……おっ、気づいたのか?具合どうだ?」
噂の土門が車のドアから顔を覗かせた。
「うん。もう大丈夫」
「そうか。涌田、橋口が呼んでるぞ」
「分かりました!」
亜美が車を降りると、交代で土門が乗り込んできた。
「土門さん、付き添ってくれてたのね…ありがとう」
「おう」
「もう大丈夫だから、仕事に戻って」
土門はマリコの顔色を確認すると、分かったと頷く。
そして、やおら手をマリコの胸元に持っていくと、外れたままのボタンを閉じていく。
「具合が悪いときぐらい、俺を呼べ。いいな?」
言われて素直にこくん、と頷く。
こんな姿って、そういうことね…と、マリコは顔を赤くした。
「ん?まだ顔が赤いな……大丈夫か?」
――― あーもぉ、大丈夫ですからっ!(←作者心の声)
fin.
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