藤倉甚一失踪事件





「どういうことだ!何があったんだ!?」

何度掛け直しても、マリコには繋がらない。
土門は呆然とスマホを見つめた。

藤倉だけでなく、マリコまで行方知れずになるとは……。

土門は立ち上がると、いよいよその足を科捜研へと向けた。





「失礼します」

「ちょうど良かった!土門さん、マリコくんの居場所を知らないかい?電話が繋がらないんだよね……」

「所長。緊急事態です。協力していただきたい」

「え?それ、どういう……」



土門はここまでの経緯を語りだした。
途中、日野によりマリコを除くメンバー全員が招集されていた。

「『部長』とマリコさんがおっしゃったのなら、やはり藤倉部長を見つけ追いかけて行ったと考えるのが妥当でしょうか?」

宇佐見が意見をまとめる。

「あいつの性格を考えれば、間違いないでしょう」

「「「「……………」」」」

全員が思い思い考え込む。

日野は一つ溜息をつくと、眼鏡をずり上げる。

「考えていても仕方ないね。マリコくんのスマホの電源は?」

「入っていません」

亜美は泣きそうだ。

「平野巡査の駐在所付近を探してみましょう」

宇佐見の提案に、全員が頷く。

「では、自分は防犯カメラの映像を集めます」

土門は一礼すると、きびすを返す。

「待ってください!」

モニタを見ていた亜美が立ち上がる。

「なんだ!?」

「マリコさんのスマホの電源が入りました!」

「亜美くん、場所は?」

亜美が地図を大画面に表示した。
土門は素早く位置を確認する。

「すぐに向かいます!」

「ちょっと待って、土門さん!電話繋がったよ!もしもし、マリコさん!?…………え?」

皆が固唾を飲んで、呂太の会話を聞いている。

「ち、ちょっと待ってね。ねえ、みんな。マリコさんのスマホ、落とし物だって、お巡りさんのところに届いたみたい」

「橋口、届け主は?」

「それが……小学生だって」

「「「「……………」」」」

脱力する面々。
これで手がかりが完全に途絶えてしまったことになる。

「くそっ!榊……」

「せめて藤倉部長の居場所が分かれば……」

土門の絞り出すような声に、宇佐見も顔を歪ませる。





「俺ならここにいるが?」



ふいに現れた人物に、全員が目を瞠る。


「「「「「藤倉部長!!!」」」」」


「部長!今までどこに!?」

土門は掴みかからんばかりの勢いだ。

「病院だ」

「病院?だからスマホの電源を落としていたんですか?」

「そうだ。診療を終えて電源を入れてみれば、土門。お前から何十件も着信があったから、急いで戻ってきたんだが…。何かあったのか?」

「部長。実は今朝から部長が行方知れずだと一部で騒ぎとなり、自分と榊で部長を探し始めました。その途中、今度は榊の行方が分からなくなってしまったんです」

「なに?」

「榊は平野巡査のもとをたずね、こちらへ戻る途中で、どうやら部長を見かけたようです。電話でその報告を受けていた途中、通話が切れました」

「俺は、平野の担当地域になんて行っていない。京都医科歯科大にいたんだからな」

「では、榊は……?」

「ちょっと待て」

そう言うと、藤倉はスマホを取り出した。

「もしもし、平野か?藤倉だ。…ああ、元気にしている。ところで今日、榊がそっちへ行っただろう?……そうだ。それで?……ふむ。……ふむ。そうか。ありがとう。いや、何でもない。職務中に悪かったな」

通話を終えると、藤倉は皆の顔を見た。

「榊は平野がひったくりの現場に出動中に帰ったらしい。だが、ちょうど交番に戻る平野とすれ違ったそうだ。平野によれば、榊は○○タクシーに乗って京都駅方面に向かっていたとのことだ」

「だったら、そのタクシー見つけようよ!」

呂太も俄然やる気を取り戻した。

「そうだな!すぐにタクシー会社に照会します」

「俺も協力する」

「部長。ありがとうございます」

日野は静かに頭を下げた。




その後蒲原の聞き込みにより、マリコを乗せたタクシーが判明した。
運転手の証言によれば、マリコは一台のタクシーを追いかけてほしいと頼み、最終的に京都駅でタクシーを降りたことまでは分かった。

すぐに全員が京都駅の防犯カメラを確認する。

「いました!マリコさん!!」

亜美の声に一同が集まる。
そこに映っていたのは、確かにマリコだった。
土門はマリコの無事な姿を目にし、そっと安堵の息を吐いた。

「マリコさん、誰かの後をつけていますね?」

周囲を気にしながら歩くマリコの様子は、明らかに怪しい。

「別の角度のカメラも見られるか?」

土門に言われ、亜美はもう1画面、別のカメラ映像を表示した。

「ん?これか??」

土門が指差す先には一組の男女が映っていた。
亜美がモニタに顔を近づける。

「ほんとだ!これ…男の方は部長にそっくりですよ!?」

「なに?」

藤倉本人もモニタを注視する。

「ん?この男は……」

「部長、お知り合いですか?」

「……………」

「部長!」

痺れをきらす土門の声色に、藤倉は渋々答えた。

「……多分、従兄弟だ」

「従兄弟……ですか?」

「そうだ。畑聡一郎はたそういちろうという。彼は関東中央監察医務院の医長をしている」

「では、監察医?」

宇佐見の言葉に、藤倉は頷く。

「隣の女性も監察医だ。確か…同僚の篠宮葉月しのみやはづきといったか」

「じゃあ、マリコくんはその人と部長を間違えて?」

「だろうな…。すまんが、誰か……土門。すぐに迎えに行ってくれ」

「承知しました」

「やれやれ……、なんて日だ!」

思わず漏れた日野の本音に、さすがの藤倉もばつの悪い顔を見せた。



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