LOVE? or WORK?
一方、マリコは科警研に着くなり、瞳が爛々と輝きだした。
つかさが研究所内の案内を買って出てくれたのだが、見るものすべてがマリコには新しいオモチャのようだった。
『全部使ってみたい、試してみたい!』
その様子に、つかさは吹き出した。
「榊さん、機械は逃げたりしないわよ?ここにいる間に色々試してみるといいわ」
「ありがとうございます!」
「あなた、根っからの研究者なのね……」
つかさは益々マリコに興味が湧いた。
『絶対に、欲しい人材だわ……』
自分のラボに戻り、一息ついたマリコはスマホを取り出した。
メールも着信もない。
「事件かしら?」
それとも。
「まだ怒ってる、のかしら……」
ブラックアウトした画面にもう一度電源ボタンを押す。
けれど、ホーム画面はいつものまま。
マリコの望むものを表示してはくれなかった。
土門はこの約1週間。
文字通り寝食を忘れて事件に没頭した。
頬は幾分かやつれ、無精髭も目立つ。
それでも眼光の鋭さは鈍ることなく、さらに切れ味を増している。
“あと1週間”
そのキーワードが土門を奮い立たせていた。
そんな中でも、土門はスマホのチェックは欠かさない。
けれど数件ある着信はいつも捜査絡みばかり。
肝心の人物からはまるで音沙汰がなかった。
ついに土門はある決意をした。
そのために今まで以上に奔走し、短期間で容疑者を確保するまでに至った。
そして7日後、土門は。
気づけばハンドルを握っていた。
マリコは珍しい人物からの着信に驚き、それでも『もしもし…』と応答した。
『まあちゃん!今、どこにいるんだい?』
それは伊知郎からの電話だった。
「どこ…って、科警研よ?」
『だったら、何で家に来ないの?橘くんから話を聞いて、研修中はうちに帰ってくるもんだとばかり…。母さんも楽しみにしてるんだよ』
「ごめんね、父さん。でも研修寮から出勤する方が楽なんだもの。母さんには“また顔出すから”って謝っておいて、ね?」
『がっかりするだろうなぁ。ところで2週間経ったら帰るのかい?京都に』
「なぜ?」
『科警研の仕事に興味はないのかな、と思ってね』
「そうね。ここの設備は素晴らしいし、周囲の人も博識で優秀な人たちばかり。毎日が驚きの連続で、とっても楽しいわ」
『そうかい。それなら……』
「でもね……」
マリコは自分の思いを伊知郎に説明した。
伊知郎は驚き、残念だと言った。
だがその声は心なしか明るいものだった。
『まぁちゃんの好きにしたらいい。そういう理由なら、父さんは京都に帰ることに反対はしないよ』
「ありがとう、父さん」
『橘くんにはもう?』
「うん。話したわ」
『彼女もがっかりしただろうね。ところで、その理由は母さんにも話していいのかい?』
「それは…もう少し待って。母さんが知ったら……」
『それは、大騒ぎだろうなぁ』
「でしょう?」
榊父娘はぷっと吹き出した。
科警研の来客用の駐車場に、土門は車を停めた。
周囲を見回せば、ちらほらと帰宅する所員の姿が目に入る。
ということは、マリコもそろそろ出てくるはずだ。
土門はまるで手配犯を探すような鋭い目付きで辺りを見張る。
そして、見慣れた後ろ姿を……見つけた。
「榊!」
「土門さん!?」
振り返ったマリコは目を丸くしていた。
土門はそんなマリコの腕をしっかりとつかんで、言った。
「迎えに……きた。お前を」