新・チャレンジ企画
――――― ズキューン!
たった一発の銃声。
――――― カラーン。
乾いた薬莢の落下音。
『……なんじゃ、こりゃぁ!』
真っ赤に染まる手のひら。
スローモーションで倒れていく体。
こと切れる瞬間、マリコは思わず目を閉じた。
「榊、コーヒーいるか?」
返事を聞く前に、土門はキッチンでコーヒーメーカーをセットする。
「……うん」
「うわ!なんだ、そこにいたのか?」
ずいぶん近くで返事が聞こえた気がして、振り返ると、マリコは土門のすぐ背後に立っていた。
「今セットしたところだから、もう少し待ってくれ」
「うん……。土門さん、何してるの?」
「ああ。明日の朝の炊飯予約をな……」
「ふーん」
マリコはリビングには戻らず、ダイニングテーブルに座り土門の様子を見ている。
「なんだ?何か用か?」
「……ううん。別に」
「?コーヒーが入ったら持っていくから、ソファでテレビでも見ていたらどうだ?」
「う、ん……………」
マリコの返事は煮えきらないが、土門はテキパキと洗い物を片付けていく。
水の流れる音に、カチャカチャと皿の重なりあう音、ポコポコとコーヒーメーカーから湯の沸騰する音がキッチンに響く。
マリコは椅子から立ち上がると、土門の背中に手を当てた。
もう片方の手は、シャツの裾をぎゅっとつかんでいる。
「榊?」
土門は振り返る。
「さっきから何してるんだ?」
「……………ように」
水音が邪魔をして、聞き取れない。
「なんだ?聞こえない?」
「土門さんが、いなくならないように」
土門はようやく気づいた。
おそらくさっきのテレビに影響されたのだろう。
きゅっと水道を止めると、まだ水滴の残る手で、土門はマリコの頬に触れる。
「いなくなったりしない。俺の不死身さはお前が一番知っているだろう?」
「でも……死にそうになったことは、何度もあるじゃない!」
「うっ。それを言われると弱いが……。でも、今、ここにちゃんといるだろう?」
「幻かもしれないわ」
「確かめてみたらどうだ?」
マリコは両手で土門の頬を包む。
「どうだ?」
「あと1分したら消えちゃうかもしれないわ」
土門は笑う。
「それなら1分…我慢しろよ?」
存在を確かめるために、体温を分けあう。
浅く、深く。
何度も。
何度も……。
「ね、ねえ!もうとっくに1分経ってるわよね?」
「そうか?俺の体内時計は故障してるのかもな?」
ニヤリと笑った土門は、そのままマリコの唇を貪り続けるのだった。
fin.