新・チャレンジ企画
「ど、どう?」
「……………」
土門は自信がなさそうにこちらを見ているマリコに、ちらりと視線を向けた。
『どう?』と聞かれれば、答えは一つだ。
“ウマイ”のだ。
『まさか!?』と驚くほどに。
今日は二人で休みをとり、ゆっくりドライブデートにでも行こうかと考えていた土門だったのだが、早朝から起き出したマリコはキッチンに籠ってしまった。
こっそりのぞいてみると、何やら紙が散乱していた。
それには温度と時間の表やグラフ、手順のフローチャートなど、普通のレシピにはないようなことがびっしりと書かれていた。
マリコはその紙を熟読しては、一人で頷きながら、忙しそうに動き回っている。
「なぁ、榊……」
「なに?」
いつも二人きりのときは「なあに?」と甘えるように戻る返事が、今日は殺気立っているかのように鋭い。
「いや……なんでもない」
すごすごと引き下がった土門は、ひとり大人しくソファでテレビを見て時間を潰すことにしたのだった。
それから、かれこれ3時間。
振る舞われたのは、茶碗蒸しだった。
なるほど。
これを作るために…なぜ、あんなにグラフやチャートが必要なのか?
土門には不思議でならないが、結果としてこれまでにない料理に仕上がっていた。
マリコにはいわゆるレシピより、科学的に説明した方が上手く料理が作れるらしい。
「土門さん、味はどう?」
「ん?ウマイぞ」
そういってマリコに差し出した茶碗は底が見えていた。
「ほんとう?」
完食してもらえたことに、マリコはニコニコと嬉しそうだ。
「嬉しそうだな?」
「だって、お料理を誉めてもらえるなんて…初めてかも?嬉しいわ」
「だったら、今度は俺も嬉しくさせてくれないか?」
「え?」
「ずーっと放っておかれたんだ。いいだろ?」
土門の顔がぬっと近づく。
「えっと……」
目を逸らせ、もじもじと身につけたエプロンの裾をいじる姿が愛らしい。
「茶碗蒸しと、どっちがウマイかな?」
「……………ばか!」
白いエプロン姿のまま押し倒してみれば、マリコからは卵と出汁の優しい香りがした。
――――― やっぱり、こっちが旨そうだ。
fin.