新・チャレンジ企画





「どもん、さん……」

赤い顔のマリコはたどたどしい口調で土門の名を呼ぶ。

「榊……」

土門はシーツに横たわるマリコを抱きしめ……。

「お、おい、榊!?お前!!!」

土門はマリコの額に手をかざす。
ひんやりとした土門の手が、すぐに熱を帯びる。
それほどにマリコは熱が高い。

「榊。すぐに支度をする。夜間救急へ行くぞ」

「そん、な。寝れば……だい、じょう……」

「大丈夫じゃない!俺は明日仕事で、看病はできない。今夜のうちに看てもらえ」

「でも……」

「でもも、へったくれもないっ!言うことを聞け!!」

「……………」

マリコは無言で瞳を潤ませる。
少しきつく言い過ぎただろうか……土門はため息をつく。

「すまん…。だが、心配なんだ。俺のために病院へ行ってくれ」

「……わかったわ」

夜間救急に到着してみれば、風邪が流行っている時期なのか、待合室には数組の患者が順番を待っていた。

受付を終えると、二人は長椅子に腰かけた。
目を閉じたマリコの息づかいは浅く、速い。

「榊、寄りかかってろ」

ぐったりとしたマリコはなにも言わず、こてんと素直に土門の肩に身体を預けた。


『風邪のようですが、熱が随分高いですね。解熱剤を出しておきますので、帰宅したら飲んでください』


医師の診察を終え、二人はようやく帰宅した。
マリコは動くのもやっとな様子で、なんとかベッドに潜り込む。

「おい、寝る前に薬を飲め」

「……………」

熱で朦朧としたマリコは、すでに半分以上眠りに堕ちていた。

「頑張って薬を飲んでくれ……」

土門はマリコの唇をこじ開け、錠剤を押し込む。

そして。

自分が口に含んだ水をマリコに分け与えた。

――――― コクン。

喉が上下に動くのを確認し、土門は安堵した。
薬が効けば、明日の朝には熱も下がるだろう。
心なしか寝息も落ち着いてきたようだ、と土門はマリコを観察する。

熱のせいでいつもより赤く、ふっくらした唇は水滴に潤っている。

分かっている。
相手は病人だ。

それでも。
もう一度。
あと、一度だけ。

……触れたい。




「ハッ!…ックション!!」

土門はティッシュを数枚引き抜くと、チーンと豪快に鼻をかむ。

「ごめんなさい…。私がうつしたのね、きっと」

土門はすまなそうなマリコの顔を直視できない。

「いや。……お前のせいじゃ……ヘックショイ!」

自業自得とは、こういうことだ。




fin.




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