新・チャレンジ企画
「♪ふん、ふん、ふふ~ん」
先程から土門の耳にはマリコのご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
「……………」
土門は新聞を読む振りをしながら、こっそりマリコの様子をうかがう。
なぜなら、その鼻歌はキッチンから聞こえてくるからなのだ……。
今日は二人揃っての非番の日。
土門は昨夜のうちにマリコの部屋を訪れた。
少しの戯れと癒しの後、土門が目覚めたのは随分と陽も高くなってからだった。
すでに隣にマリコの姿はなく、一抹の寂しさを覚えながらもリビングへ向かう。
そこでエプロンを身に付けた新妻のように愛らしいマリコに、とびきりの笑顔を向けられた。
「おはよう、土門さん。ゆっくり眠れた?」
「……………」
土門はとりあえず本能のままに動いた。
「え?ええ!?んんんっっっ!!!」
マリコは力が抜け、へなへなと崩れ落ちそうになるところを土門に抱き止められた。
「もう!いきなり、なに!?」
「可愛いから」
「へっ?ど、土門さん、寝ぼけてるの?」
「寝ぼけてるかどうか…もう一度確かめてみるか?俺はぜんぜん構わんが……」
そういって再び顔が接近する。
「わ、分かったから!」
マリコはぐいーっと土門の顔を押し返す。
「ちっ!」
「もうすぐ朝御飯ができるから、座って待ってて」
「あさ…ごはん?お前が作るのか?」
「そうよ。他に誰が作るの?あ!そろそろいいかも♪」
マリコはいそいそと皿の準備をはじめる。
土門は先程の威勢は何処にいったのか?と思うほど神妙な面持ちでソファに座り、新聞を広げた。
内容は一文字たりとも入ってこないが……。
そんな経緯があり、土門は何とも言えない緊張感を持ってマリコの鼻歌を聞いているのだ。
「よし、っと!」
「で、できたのか?」
「ええ。さあ、食べましょう」
食卓に並べられた皿の上には丸く平らな物体と、フルーツが添えられていた。
「こ、これは?」
「見れば分かるでしょ?パンケーキよ!」
「パ、パンケーキ……」
……か?これが??
と思うほど、見事に膨らんでいない。
「食べてみて?」
土門は覚悟を決めて、一口食べた。
「………………」
焼きすぎてはいるが、ほんのり甘くて優しい味がした。
パンケーキではなく、ガレットだと思えば及第点の出来だろう。
「おいしい?」
そんな期待と不安の入り交じった顔で見られたら……。
「……うまい」
としか、答えられんだろうが!
苦笑する土門へ、更にマリコのビームが襲いかかる。
さて、今度は何と答えるのが正解だろうか。
土門はしばし考え、解答を導きだした。
「また、作ってくれ」
にっこり。
見事正解した土門へのご褒美は、さっきに負けず劣らずの笑顔と、ほっぺに小さなリップ音一つ。
fin.
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