マリコと有雨子





日野所長だけを残し、4人のメンバーは宅配業者の荷台に乗り込んだ。
楡木家の正面に大型トラックを停め、宅配業者に扮した捜査員が対応している間に、素早く楡木家に潜り込んだ。

「土門さん!」

土門は頷いて応えると、4人を自分の方へ招く。

「急に呼び出してすまんな。さっそくだが、逆探の準備を頼む」

「分かった。みんな!」

マリコの掛け声に、各自が準備を始める。


「マリコさん、自宅の電話とスマホの逆探設定はできました」

「宇佐見さん、ありがとうごさいます」

「マリコさん、家の防犯カメラはこのPCで見れるようにしますか?」

「ええ、お願いね。亜美ちゃん」

「ラジャーです!」

「ねぇ、ねぇ、マリコさん……」

「なあに、呂太くん?」

「通話機能のあるアプリとかもさ、設定変えておいたほうがよくないかな?」

「そうね!頼んでいいかしら?」

「うん!」

マリコは改めて誘拐された少年のデータを見直す。

「土門さん、身代金の受け渡し方法は?」

「具体的な指示はまだだ。最初の連絡は金額の提示だけだったらしい」

「そう。犯人の性別は見当がつく?」

「男の声だったそうだ」

「え!?地声だったの?確か、連絡も宗也くんのスマホからだったのよね?」

「ああ」

「…………そう」

マリコは顎に手を当て、何事か考えているようだった。




「あの、皆さん。お疲れさまです」

か細い声とともに、部屋で休んでいたはずの瑠美が顔を出した。
お茶と菓子が乗った大きなお盆を手にしている。

「私ったら気がつかなくて…、本当に申し訳ありません。みなさん、宗也のために動いてくださっているのに……」

「奥さん!そんな必要はありませんよ。もう大丈夫なんですか?」

慌てて駆け寄った土門は、瑠美の手からお盆を受けとる。

「はい。ご迷惑をおかけしました」

「そんなことは……。とにかく、無理はしないでください」

「ありがとうごさいます」

二人のやり取りを、マリコはじっと見ていた。
話の流れを聞けば、どうやら相手の女性は誘拐された子どもの母親のようだ。
彼女が現れた瞬間、マリコは驚きに息を飲んだ。

似ている、なんてものではない。
瓜二つ。
生き写しのようだ。

土門の亡き妻……有雨子に。

これまで美貴のスマホでしか見たことのなかった二人の姿を、今、目の前で見ているようだった。
二人が並んでいる様子は、正直マリコには予想以上に堪えた。

かつて、二人もこんな風に話し合っていたのだろうか?
時おり視線を合わせ、言葉少なに。
それでも十分通じ合っている……。

マリコはそんな二人を見続けることができず、顔を逸らせた。
挫け、折れそうになる気持ちを、拳をぎゅっと握ることで耐える。
今、自分がするべきことはこんなことではないはすだ。
マリコは己を奮い立たせ、資料に意識を集中する。

いつしか、マリコの頭の中からは土門のことも、有雨子のことも…消えていた。



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