京都浴衣振興会応援プロジェクト with 京都府警





マリコはまっすぐ土門に向かって歩いてくる。

白がベースの浴衣だが、大輪の朝顔が咲き誇るデザインだ。青や紫の花が多い中で、前身ごろと後ろ身ごろに一輪ずつ、濃いピンクの朝顔が咲いている。

一輪だけのピンクの朝顔…それはまるでマリコ自身のようだと土門は思った。


「あら?土門さんたちも浴衣なの?」

「ん?ああ、仕方なくな」

「ふふふ……」

「なんだ?」

「土門さん、『馬子にも衣装』ね!」

マリコはしてやったりと笑う。

「おいおい、いい歳した男にその表現はどうなんだ?」

「いいでしょ?たまには。お返しよ」

「お返し?」

「だってまた言うつもりでしょ?」

「何をだ?」

『しらばっくれるつもりかしら?』とマリコは、挑むように土門に聞いた。

「……私の浴衣姿、どう?」

「正直に言っていいのか?」

「どうぞ」

「よく……似合っている」

「……………」

“ぽかーん”と口を開いたあと、マリコはすごい勢いで赤面した。

遠巻きに見ていた周りの職員たちがざわめく。

「ばかっ!ちょっと来い!!」

土門はマリコを連れて、屋上へと向かった。




「お前、皆がいる前でなんて顔するんだ!」

「だ、だって土門さんが変なこと言うから……」

「別に変なことなんて言ってないだろう?」

「言ったじゃない!……『似合う』って」

「それのどこが変なんだ?」

「いつもはそんなこと言わないでしょ?」

「それは……!」

はぁ、と土門はため息をついた。

「お前と付き合う前の話だろう。こういう関係になった以上、自分の女を褒めて何が悪い?」

「な、なに言って……」

「似合ってる。押し倒したくなるのを必死に我慢するほどにな」

「ふざけるのもいい加減に……」

土門は浴衣の袖からのぞくマリコの細い手首をつかんだ。

「ふざけてなんていないさ。ここで証明するか?」

土門は断られることを承知で、マリコの腕を引っ張る。
すると、マリコの体は土門の胸の中にすっぽりと収まった。

「……………」

マリコの目には、緩く着付けた浴衣から、はだけた土門の素肌が眩しく映る。

「榊?」

黙りこんでしまったマリコに、『本気で怒らせたか?』と土門はやや心配になった。


「本当に、証明……できるの?」

土門はその言葉に目を瞠る。

「……お前が望むなら」


――――― さあ、どう出る?榊


「だったら、証明して……みせて」

くらり、と土門は眩暈がした。


――――― 叶わない。
――――― この女マリコには。


証明は唇と。
戯れに、浴衣の合わせ目にも一つ。

「夜まで浴衣は脱ぐなよ?それは俺の仕事だ……いてっ!」

「もう、調子に乗りすぎよ!」





「藤倉部長!」

芥子色の浴衣に身を包んだ藤倉が科捜研へ顔を出したとき、あいにくマリコは不在だった。

「榊は?」

「今…、席を外しているみたいです」

日野はマリコの研究室の明かりが消えているのを確認し、答えた。

「そうか。土門も一課に居なかったんだが……?」

「それでは、捜査会議かもしれませんね?」

宇佐見の言葉に、藤倉は苦笑する。

「まったくあいつら……。まあ、土門の気持ちも分からんでもないが」

マリコの浴衣姿の噂は、すでに藤倉の耳にも届いていた。

「会議とやらを終えたら、二人で部長室へ来るように伝えてくれ。広報が今日の写真を撮りたいそうだ。『京都府警のミス&ミスター浴衣』とかいう企画でな。……あの二人が適任だろう?」

「同感です!」

ニヤリと笑う藤倉に、宇佐見も笑顔で応える。

きっと京都浴衣振興会とコラボして、ポスターか、QUOカードか、クリアファイルか…何かしらのグッズになるに違いない。
いずれにしろ……。

『早月と亜矢のために2つは手に入れなければ!』とこっそり使命感に燃える宇佐見であった。




fin.




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