『密着!どもマリ24時』(マリコさんB.D編)

in aquarium



「旨かったな」

「ええ!ご馳走さま」

「波田野さんにお礼を伝えておかないとな……と、これからどうする?」

「ノープランなの?」

「お前の望むままに……」

「そうねぇ……。今日、本当は行きたいところがあったの。そこへ付き合ってもらおうかしら」

そういうマリコの案内で、二人がやってきたのは水族館。


「ここか?」

「ええ。特別展が見たかったの。良かったわ、ナイト営業もやっていて!」

マリコはお目当ての展示室まで脇目もふらず、一目散に歩いていく。

そのマリコが足を止めた先には、大小様々な水槽が並んでいた。
その一つ一つにライトアップが施され、この部屋だけまるで別世界な雰囲気に包まれていた。

「お前が見たかったのはこれか?」

「とても幻想的でしょう?」

マリコが食い入るように見つめているのは、海月クラゲ

そう。
ここには数メートル級のものから数センチ程度のものまで、様々な種類の海月が展示されていた。

「海月に興味があったのか?」

「だって、気にならない?何でこんなに色や形状が様々なのか。そもそもプランクトンの一種らしいけど、生態自体は謎も多いのよね……」

「……………」

やっぱりそこか、と土門は予測が当たったことに、もはや何の感慨もない。
それでも海月に目を向ければ、土門もマリコとは違う視点から魅了されいく。

不規則にただ水槽の中を漂う海月の群集は、不思議と見る者を無心にさせる。
時が止まった世界で、海月だけが揺らめいてる……そんな空間に迷いこんでしまったかのように、土門は水槽の前に立ち尽くした。


「ね、ねえ?」

と、マリコが土門の袖を引いた。

“はっ”と土門は自分を取り戻す。

「なんだ?」

「もう行きましょう?」

「もういいのか?」

「だって……」

マリコは恥ずかしそうに顔を伏せる。

「どうかしたのか?」

「あの……」

と言うと、その先は小声で伝えられた。

「周りの人たち、みんなデートなのかしら?」

確かに、土門とマリコ以外にも数人がこの展示場内にはいる。
すべてが男女のペアであり……カップルであることは一目瞭然だ。

ある二人は手を繋ぎ、ある二人は隙間なくぴったりと身を寄せ合い、ある二人は数センチの距離で顔を近づけ囁きあっている。

「そりゃ、夜の水族館なんて王道のデートスポットだろう?」

「そ、そうなの?」

目を丸くするマリコに、土門は少しだけ吹き出してしまった。

「相変わらず、“そういうこと”には鈍いな、お前」

マリコはぷくっと頬を膨らませて拗ねる。

「なに。俺たちも同じようにすれば恥ずかしくもないだろう?」

そういうやいなや、土門はマリコの腰をぐいっと引き寄せた。
勢い、マリコは土門にもたれ掛かる。

「ど、土門さん!」

「みんな他人のことなんて気にしちゃいないさ。それより、気がすんだならもう出るか?」

「み、耳元でしゃべらないで……」

「ん?」


――――― 息が。
外耳をくすぐり、ふぅ、と奥まで侵入する。


「わ、わかったわ。もう行きましょう!」

マリコは土門の袖を引っ張り、部屋の出口へ向かう。
『特別展』と書かれた大きなパネルを横切ったとき、土門が足を止めた。
急に逆方向に引かれ、マリコは振り返る。

「土門さ……」

それ以上は声にならない……いや、「させてもらえなかった」というのが正解だろう。



「……もう!」

「なんだ?また怒らせたか?」

「だって、こんなところで……」

「嫌だったか?」

「……………………いじわる!」


もう一度、マリコは口の自由を奪われた。



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