『密着!どもマリ24時』(マリコさんB.D編)

Surprise 1



本屋へ寄ったり、雑貨屋で食器を眺めたり。
二人は当てもないウィンドショッピングを楽しんでいた。

すると、土門は腕時計を確認し、「榊」とマリコを呼んだ。

「榊、一軒だけ俺につきあってくれるか?」

「いいわよ?」

「ここからは気を取り直して、今夜の主役をエスコートさせてくれ」

そういうと土門はタクシーを呼び止め、マリコがはじめて聞く単語を運転手に告げた。

「どこに行くの?」

「ん?着いてのお楽しみだ」

しばらく走ると、タクシーは大きな門の前で停車した。
ピタリと閉じた門の奥はうかがい知ることができない。

しかし土門は臆することなく、呼び鈴を鳴らした。

『はい?』

するとすぐに応えがあった。

「土門です」

『少々お待ちください』

プツリと電子音の切れる音がしたかと思うと、荘厳な雰囲気からは想像できないほどすんなりと門は開いた。

「まぁ……」

その一言だけで、マリコは絶句した。

一体何十メートルあるのだろうか?
石畳の続く先には、蔦の絡まる洋館が聳えていた。
周囲にはきちんと手入れを施された植物たち。
訪れる人を楽しませるためだろうか、目線の高さには美しい色合いの花が咲き、芳しい香りを放っている。

土門はマリコへ左腕を差し出した。
マリコは右手を軽く添えた。
そして二人はゆっくりと歩き出す。

この一本道を歩いているのは、二人だけ。

まるでヴァージンロードのようだ…と、土門はマリコを見下ろした。
すると、自分を見上げるマリコと目が合った。
大粒の瞳がじっと土門を見つめている。

「綺麗だな……」

「え?」

「庭が」

「お庭だけ?」

もちろんそんな訳などない。

「さあ、どうかな?」

けれど、今はまだ……。




「実は、今夜は波田野さんの店を予約するつもりだった。だが、あいにく貸しきりの予約があってな……。そうしたら、彼がここを紹介してくれたんだ」

歩きながら、土門は経緯を説明した。

洋館に入ると、品のよい老紳士が二人を出迎えてくれた。

そして案内されたのは、落ち着いた雰囲気の個室だ。
年代物の調度品がセンスよく並び、足元には刺繍の美しい絨毯が敷かれていた。

二人は部屋の中央に配置されたテーブルに向かい合って腰かけた。

「土門さま。本日はようこそおいでくださいました、支配人のつつみです。波田野くんからお話は伺っております。今夜は私どものお料理で、大切なお時間をおもてなしさせていただきます」

「よろしくお願いします」

「はい。では、手はじめに……」

支配人が手を叩くと、扉が開いた。
そしてワゴンが運ばれてきた。

「こちらは私どもから……」

そういって銀製のクローシュを開けると。

そこには、ブリザーブドフラワーが埋め込まれたガラスの靴が乗っていた。

「お誕生日おめでとうございます、レディ」

「え!?私に?」

「はい」

「あの、ありがとうございます。とってもステキだわ」

マリコはこのサプライズに目を輝かせている。

「では、お料理を準備いたします。お待ちくださいませ」


そして数分後には支配人チョイスのシャンパンと、色とりどりの前菜が並べられた。

「旨そうだな」

「ええ。食べるのが勿体ないくらい綺麗ね」

「そういわず、しっかり食べてくれ」

土門は苦笑すると、シャンパングラスを手に取った。

「榊。おめでとう!」

カチン!と薄いグラスが交わり、軽やかな音を立てる。

「ありがとう、土門さん」

ようやくマリコは心からの笑顔を見せてくれた。



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