『父になる』ということ。『母になる』ということ。
マリコの担当していた業務の割り振りや引き継ぎについてはまた後日相談することとし、二人は科捜研を辞した。
家に帰ると、マリコはやや疲れているようだった。
「大丈夫か?」
「ええ。何だか緊張して疲れたみたい」
「お前でも緊張するのか?」
からかう土門をマリコは可愛らしく睨む。
「ところで、部長にも言われたが。ご両親への報告はどうする?」
「うーん。週末に電話するわ。今日は母さんの質問攻撃に耐える自信がないもの……」
ふぅー、と息をはくマリコを見て、土門は『確かにな…』と笑いを噛み殺すのだった。
この日を境に、予想通りと言うべきか…土門のマリコに対する過保護っぷりは相当なものであった。
送迎などはこれまで同様であったが、昼休みには必ず顔を出し、マリコの体調と昼食を確認する。
やむを得ず外出中の場合には電話を入れるという徹底ぶりだ。
マリコが臨場すればぴたりと張り付き、ご遺体に触れることのないように見張っている。
さらに家に帰れば……と、きりがないのでこれ以上はご想像にお任せしようと思う。
「土門さんたら…。病気じゃないんだから」
げんなりするマリコだったが、そんな土門ですら“マシ”であることを、この後痛感することになるのだった。