『父になる』ということ。『母になる』ということ。
「失礼します」
「あれ?土門さん!今日はお休みじゃあ……」
亜美と並んでPC画面を確認していた蒲原が、気づいて声を上げた。
「ん?蒲原も来ていたのか、ちょうどいい」
「あ、マリコさんも!」
亜美も、土門の後ろからひょっこり顔を出したマリコを見つけて驚いた。
「お二人とも何かご用ですか?」
宇佐見はお茶を注ぐ手を止めた。
「あ、宇佐見さん。これをお茶請けにしてください」
「あ、ありがとうございます……」
マリコは上品な絵柄の紙袋を宇佐見に手渡した。
「マリコくんがお土産だなんて……?」
宇佐見の隣で、日野は早くも今夜の降水量を気にし出した。
「いいえ、ごめんなさい。それは風丘先生からなんです」
「そうでしたか!おや?では洛北医大へ寄ってこられたんですか?」
「わあ!いい匂い~」
お茶とお菓子の香りに誘われて、呂太も姿を現した。
全員揃ったところで、土門はマリコをちらりと見る。
すると、マリコは小さく首を振った。
自分で話す、そうマリコは決めていた。
土門は頷き、一歩下がる。
つまり、マリコが進み出た形となった。
「ええ。風丘先生のところへ行ってきました。土門さんと一緒に……」
マリコは深呼吸をして、準備を整えた。
「みんな、聞いて。私……赤ちゃんが出来たの」
『へっ?』とは亜美。
『え?』は蒲原。
『本当かい!?』は日野。
『!?』と目を瞠るのは宇佐見。
そして、『やった♪』と口をもぐもぐさせるのは呂太だ。
そして、みな一斉に土門を見る。
土門は苦笑し、「本当だ」と頷いた。
どよめきと共に、「おめでとう!」の声があちこちから上がる。
「所長。みんな。産休に入るまで、榊の面倒をお願いします」
頭を下げる土門に、日野は重々しく頷く。
「分かりました。みんなで“見張る”ことにしますよ」
宇佐見は思わず失笑した。