『父になる』ということ。『母になる』ということ。
翌日、急ではあったが二人は休みを取り、まずは洛北医大へ向かった。
早月は夫妻の顔を交互に観察し、そして頭を下げた。
「土門さん、マリコさん、おめでとうございます」
「風丘先生!」
マリコが慌てて早月の頭を上げさせる。
すると、早月の顔は歪んでいた。
「良かった。二人のことは信じていたけど、こればかりは夫婦の問題だから……」
早月はずずっと鼻を啜ると、土門に向かい合った。
「土門さん。マリコさんの顔、この前と全然違う。マリコさんから不安を消し去ってくれて、温かい笑顔を取り戻してくれて……ありがとうございます」
土門は一度だけ目頭を擦り、『いえ』とだけ返した。
そして、マリコに対しては。
“ふわり”とマリコと同じくらい細い腕が、その体を包んだ。
「マリコさん、おめでとう。私、二人の赤ちゃんの為なら何でも協力するから!困ったこと、不安なこと…何でも相談して」
「先生……」
マリコの声も濁りだす。
二人はしばらく抱き合い、小さな命の芽生えを改めて喜びあった。
早月と別れた後、二人は役所へ向かった。
そこでマリコは人生初の『母子手帳』を受け取り、よりいっそう実感が増した。
――――― 私、お母さんになるのね……。
マリコはそっと隣を歩く土門に目を向ける。
――――― 絶対に、薫さんをお父さんにしてあげなくちゃ!
改めて口を引き結び、マリコは決意する。
すると土門がふいにマリコの手を握った。
まるで、マリコの思いが伝わったかのようなタイミングだった。
マリコは思わず下腹部を見た。
――――― もしかして、あなたの仕業?
答えはなかったけれど、マリコは幸せそうに微笑んだ。