『父になる』ということ。『母になる』ということ。
2年前に土門とマリコは入籍した。
挙式は本人たちの希望で、親族と親しい友人らで執り行われた。
それから土門は試験を突破し、警部へと昇進した。
マリコも次期所長との呼び声が上がるほど、仕事に邁進している。
二人は今、公私ともに充実した日々を送っている。
『風丘先生。どうされました?』
「忙しいのにごめんなさい。急用なの。今から会えませんか?」
『今から……ですか?』
土門の歯切れは悪い。
「ええ、今から。マリコさんのことで」
『…………わかりました。洛北医大へ行けばいいですか?』
土門の声色が変わったことに、早月はすぐに気づいた。
土門のこういうところを早月は買っている。
だから親友のマリコを安心して預けられるのだ。
「あ…、いいえ。医大から5分くらいの所にカフェがあるんです。分かりますか?」
『ああ、分かります』
「そこで」
『では…30分後に。いいですか?』
「ええ、大丈夫です」
通話はそこで切れた。
土門が指定されたカフェに入ると、すでに早月の姿があった。
「すみません、待ちましたか?」
「いいえ。強引に呼び出してごめんなさい」
「榊のことなら、自分には聞く義務がありますから。それで……」
続けようとしたところで、ウェイターがオーダーをとりに来た。
「コーヒーを」
それを聞き、ウェイターは立ち去った。
「あのね、この前……マリコさんが貧血の検査を受けたことは聞いてます?」
「はい」
「その結果が出たんです……」
「まさか、何か悪い病気ですか?」
「あ、ううん。違うの。そういう話じゃないから安心してください」
「そうですか……」
土門は“ほっ”と息を吐く。
「貧血検査の結果は問題ないわ。ただ他に気になることがあったんです」
「と、いうと?」
「うーん、守秘義務があるから内容は教えられないの。明後日、マリコさんに説明するつもりです。それでもし1週間経ってもマリコさんが何も言い出さないようなら、連絡を下さい。その時は土門さんにも全てお話します」
「……命に関わることではないんですね?」
「そこは大丈夫。医師として、太鼓判を押すわ」
「わかりました。先生を信じます」
「あ、今日のことはマリコさんには内緒にして下さいね」
「ええ、もちろん」
二人は共犯者同士…、頷きあった。