『父になる』ということ。『母になる』ということ。
翌朝、土門はスマホのバイブレーションに目覚めた。
見れば藤倉からの着信だった。
「はい、土門です」
「土門、朝早くからすまない。榊の具合はどうだ?」
土門は、藤倉には全てを伝えた。
「土門、34日だ」
「は?あの、それは一体……?」
「お前の有給の残り日数だ」
「……………」
「土門、しばらく出勤はするな」
「え?」
「有給で足りなければ、特休をつけてやる。榊の側に居てやれ」
「いえ、しかし……」
「これは命令だ。お前からの電話には出ないように、署員には通達しておく。もちろん蒲原にもだ。いいな?」
「……………」
「返事!」
「承知しました!……部長、ありがとうございます」
「さて、何のことだ?」
とぼけた上司からの通話はそこで切れた。
その日から3日、マリコは一日の殆どをベッドの上で過ごしている。
微睡んでいるかと思えば、目尻に涙を浮かべ天井を見つめていたりする。
妊娠という理由だけでなく、マリコが情緒不安定に陥っていることは、土門にも容易に見てとれた。
だから土門は藤倉の申し出をありがたく受け入れ、ずっと病院に泊まり込み、マリコのそばで手を握り続けた。