『父になる』ということ。『母になる』ということ。





深夜、マリコは意識を取り戻した。
目覚めてすぐ、右手がとても温かいことに気づいた。
だから、顔を右側に向けた。

「マリコ!」

薫さん、と声を出そうとして上手く出せないことに、マリコは戸惑う。
酸素マスクが邪魔をしているのだ。
そしてその瞬間、一気にマリコの記憶が遡った。

「!?」

土門はマリコの酸素マスクを外してやった。

「薫さん、あの子は!?赤ちゃんは!!」

「マリコ、あの男の子は無事だ。安心しろ」

ほっとマリコの顔から緊張が緩む。
逆に土門は、マリコの手を握る力を強めた。

「マリコ、落ち着いて聞いてくれ」

「薫さん?」

「俺たちの子供だが……」

「まさか!?」

「最後まで話を聞け。赤ん坊は無事だ。ただし、心音が微弱になっていて、このままでは危険らしい。赤ん坊のためにも、お前は絶対安静だ」

「……なんて、こと……。薫さん……ごめん、なさ、い」

マリコは両手で口を覆ったまま、声を詰まらせる。
土門はそっとマリコの髪を撫でた。

「お前のしたことは間違っちゃいない。後悔したりするな。いつものように、顔を上げていろ。俺とお前の子だ。こんなことぐらいで、どうにかなったりするもんか!」

土門はマリコと、そして自分にも言い聞かせる。

そうだ。
絶対に助かる。
多くの人に待ち望まれている赤ん坊なのだ。
こんなところで……。

こっくりとマリコは頷く。
やや呼吸が荒くなり始めたようだ。
土門は酸素マスクをつけ直すと、「もう休め」とマリコに言い聞かせた。

「ずっと側にいる。一人じゃない、大丈夫だ。安心して、まずは自分の体を元に戻せ……」

マリコは返事の代わりに、土門の手を握る。
そして、ゆっくりと目を閉じた。




13/20ページ
スキ