ウルフ
どこをどう歩いたのか…。
マリコは知らぬ間に科捜研へ戻って来ていた。
そこでふと、パソコンに向かい合っている亜美のお団子頭が目に入った。
「ねえ、亜美ちゃん」
「はい?」
「さっき見慣れない婦警さんがいたんだけど、誰だかわかるかしら?あのね……」
マリコは問題の女性の人相や特徴を説明していく。
「ああ!それなら最近異動してきた山上巡査じゃないでしょうか?」
「山上巡査?捜査一課と関係してるの?」
「総務課所属なので、事務関係は一課の分も担当しているはずです。今は帳場のお手伝いもしているはずですよ」
「そうなの……」
塞ぎこんだようなマリコの様子に、亜美の鼻がピクリと反応した。
「マリコさん、何かありましたか?」
「え?ううん……」
「もしかして……。土門さん絡みですか?」
「……………」
無言の返事に『やっぱり……』と亜美はマリコの背中を押し、研究室へ二人で籠った。
「亜美ちゃん?」
「一昨日、総務課の友達とランチしたんです。その時に聞きました」
「何を?」
「何って…山上巡査のことです!山上巡査は、その……土門さんのことが……すき、みたいです」
「……………」
「告白もしたみたいだって、友達は言ってました……」
「……そう」
「あ、あの、マリコさん。土門さんに限って、ですね……」
「ええ、分かってる。大丈夫よ、心配しないで。さっ、鑑定を続けましょう!」
そう言われては仕方なく、亜美はマリコの研究室を出た。
シャッとブラインドが閉じられ、マリコの様子は見えなくなってしまった。
「マリコさん、大丈夫かなぁ……」
可愛らしい女の子だった。
若くて。
サラサラとしたセミロングヘアーが目を惹くような……。
「帳場の手伝いをしてる、って言ってたわね……」
張り込みで疲れた心と体を、あの子なら癒してあげられるのかもしれない。
自分は鑑定にかかりきりで、『お疲れさま』のメッセージすら送っていない。
必要なのはどちらか。
「そんなの……考えるまでもないわよね」
モニターに結果が表示されたことにも気づかず、マリコはただじっと自分の足元を見つめていた。
手のひらをぎゅっと握りしめて。
そうしなければ、何かが零れてしまいそうだったから……。