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「しばらく、人事異動で慌ただしくなるな」
「もう4月だものね」

屋上を渡る風も、いつの間にか柔らかい。

「そういえば、俺が刑事に任命されたときの話は以前したよな?」
「火浦さんと…」

「ああ、そうだ。お前はどうなんだ?」
「え?」

「科捜研に入所した頃の話、あまり聞いたことがないな」
「さぁ…どうだったかしら」

「お前のことだ。どうせ科捜研に入り浸りの日々だったんじゃないのか?」
「……否定はしないわ」

くくっと土門は笑う。

「色々…」
「ん?」
「色々あったわね………」

マリコの脳裏を走馬灯のように、過去の出来事が流れていく。

仲間との出会いや別れも、幾度となく経験した。
そう、あの刑事ひととも…。

マリコの意識が一瞬過去と交錯する。

『榊くん…』

懐かしい呼び方だ。
もう一度聞きたい…マリコは耳を済ませた。

でも。

「榊?」

聞こえたのは、違う呼び方、違う声。

けれど、今のマリコには過去のそれよりも、ずっと大切な人の声。
何より、その人は今、生きて自分の傍にいる。

「土門さん」
「ん?」

「土門さん」
「…榊?どうした?」

「何でもないわ」
「変なやつだな…」

訝しげな土門に、マリコは曖昧に微笑む。

――――― どうかこれからも、ずっと…。

「傍にいてね」

その一言は、桜吹雪にかき消されてしまった。


「そろそろ戻るか?」
「ええ」

歩き出した土門は、ふと足を止めると振り返る。
後ろからついてくるマリコへ手を差し出した。

「なに?」

「傍にいるんだろ?だったら後ろじゃなくて、隣りに来い」

「!」

マリコは大きな瞳をさらに見開き、泣きそうな表情を浮かべる。
2つの手のひらが重なり合うその瞬間、何かが隙間に舞い込んだ。

そっと開くと、そこには淡いピンクのハート型。

春を導く、小さな花びら一枚。


(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」


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