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♪仰げば尊し 我が師の恩

「卒業式なのね……」
「ああ。もう、そんな時期か」

二人は歌の流れる方に目を向ける。
それは小学校の体育館から聞こえてきたようだ。

今日は朝から天気もよく、温かい。
ポカポカとした陽気に誘われて、二人はあてもない散歩に繰り出していたのだ。


「そういえば、聞いたわよ」
「ん?」
「美貴ちゃんの高校の卒業式に保護者代理で出席して、泣いちゃったんですって?」
「は?そりゃ、デマだ。泣くわけないだろうが!美貴のやつ…」
「ふふふ」

「お前はどうなんだ?」
「え?」
「お袋さんだよ」
「ああ…。うちはね、母さんじゃなくて父さんが号泣してたわよ。中学のときだけど」

マリコは当時を思い出し、げんなりする。
あまりに恥ずかしかったから、高校の卒業式には伊知郎を出席厳禁にしたほどだ。

「何となく、想像できるな……」
「でしょう?」

顔を見合わせて苦笑する二人の隣を、今度は幼稚園児が歌いながらすれ違う。

♪歩こう 歩こう

「あら、近くに幼稚園があるのかしら?」
「小学校の隣に幼稚園が併設されているみたいだな」

二人が園庭をのぞくと、カラフルな園帽をかぶった園児たちが楽しそうに遊んでいた。

「こんにちは」

二人に気づいた園長らしき年配の女性が声を掛けてきた。

「こんにちは。すみません、勝手にのぞいたりして…」

土門は慌てて頭を下げた。
最近では子どもたちの安全のために、そういったことを気にする場所が増えていることを、刑事である土門は熟知していた。

「ああ、いえ。大丈夫ですよ。そうだわ……」

女性はマリコに折りたたまれたプリントを差し出す。

「これ、良かったらどうぞ」
「?」

中を開き、土門と二人でのぞき込む。

「お気をつけて。……はーい!先生も仲間にいーれーて!」

女性は軽く会釈すると、自分を呼ぶ子どもたちのもとへ戻っていった。

「勉強になりそうね、これ」
「ああ。ほぅ…俺も参加できるらしいぞ」

マリコの手にした紙には、《プレママ・パパ講座のご案内》と書かれていた。

「非番が取れたら行ってみる?」
「ああ。申請しておく」

土門はマリコから紙を受け取ると、そのままその手を握った。

「すこし風が出てきたな。寒くなる前に帰ろう、マリコ」

土門はずいぶんとせり出してきた妻のお腹を気遣うように、そう言った。

マリコは頷くと、おとなしく夫に手を引かれ歩きだす。

そして再び小学校の前を通り過ぎるとき……。

「卒業式、絶対泣くわよね?薫さんは」

「ふふふ」と笑いながら、愛おしそうにお腹を擦る妻に、夫は複雑な顔を見せる。

それは、「あながちハズレてはいないだろう」と本人にも分かっているから…なのかもしれない。


『3月』。
別れと旅立ちの季節が過ぎれば、新しい出会いは…もうすぐそこだ。


(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」


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