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夏祭りの夜、マリコは土門と待ち合わせをしていた。
しかし土門は仕事の区切りがつかないのか……約束の時間を遅れている。

「せっかく浴衣を着て来たのに……」

ため息をつくと、まとめ髪に刺したかんざしのかな細工が揺れる。

「おねーさん、一人?」

なんて声をかける不届き者はもう幾人目か……。
マリコはうんざりした。

「悪いな。連れがいる」

マリコの背後から声がした。

振り返ると、土門が立っていた。

「ちっ!」と男は舌打ちすると、憎らしげに土門を睨み付け、その場を立ち去った。

「土門さん、遅いわ!」

「すまん……」

「仕事、そんなに忙しかったの?」

「いや……」

土門は言葉を濁す。

「……実は、これを探していた」

土門はマリコに紙袋を差し出した。
マリコが上目遣いで中身を尋ねると、開けてみろ、と土門は苦笑する。

ガサガサと袋から中身を取り出すと。
それは、菖蒲の絵柄が雅な和紙の団扇だった。

「まあ、きれい……」

「今日の浴衣に似合うか?」

マリコは扇ぐ仕草のポーズをつけて、「どう?」と土門にたずねる。

しかし土門は答えず、ただ笑っている。

「それで機嫌を直してくれるか?」

「そうね……。りんご飴もつけてくれたら!」

マリコはするりと土門に腕を絡める。
しゃらりと揺れるかんざしが涼やかだ。

「榊、団扇は無くさずに持っていろよ?」

「え?ええ……」

念を押す土門に、マリコは首を傾げつつ頷いた。

「あ、あったわ!りんご飴」

軽やかに下駄の音を響かせ、マリコは足早に土門を引っ張る。

今夜のマリコは少女のようなあどけなさと、妖艶な女性の魅力が混じりあっている。
そんな稀有で美しい華を、男どもが放っておくはずがない。
だから、土門はマリコへ団扇を送った。

団扇とは、古来より病魔などを打ち払う魔除けとして用いられてきたのだ。
だったら……。
マリコに群がる悪漢も打ち払ってくれるだろう。

「早く、土門さん!」

自分の腕を引くマリコに追い付くと、土門はマリコの耳元に口を寄せた。

「浴衣、よく似合っているぞ」

今年のりんご飴は例年よりも赤く、そして甘いらしい。

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(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」



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