一級葬祭デレクターの受難





「おい、土門!」

刑事部長室を出たところで、土門は狩矢警部に呼び止められた。
狩矢警部はこれまで数々の番組に出演……もとい、数々の事件を見事解決へと導いてきた伝説のような刑事だ。
普段一緒に捜査へあたることはないのだが、土門も尊敬している上司の一人だ。

「帳場が立つのか?」
「はい」
「ふむ…。やはり明子さんの慧眼には感服するな」
「あの、葬儀社の女社長ですか?」
「そうだ。彼女の観察眼と推理力、行動力はそこらの刑事にもひけは取らないだろうな」

土門は、誰かとよく似ているな…と思ったが、あえて口には出さなかった。

「それで、犯人の目星はついてるのか?」
「まだ裏付けの最中ですが、恐らくは……」
「そうか。流石だな」
「いえ」
「もし、明子さんの協力を仰ぐなら、私にも連絡をくれないか」
「わかりました」
土門が頷くと、狩矢は自分の班へと戻っていった。



翌朝、この一件が殺人事件と断定された、との報告を土門から受けたマリコは、呂太を引き連れDNAの採取に奔走した。
そして科捜研へ戻ると、昼食をとる間も惜しく鑑定を始め……ようとしたところで、スマホが鳴った。

「もしもし、土門さん?何か進展があったの?」
せっつくようなマリコの問いかけに、電話の向こうで土門は苦笑する。

『いや、そうじゃない。今、コンビニにいるんだが……』
「コンビニ?」
『お前、何か食いたいもんあるか?』
「えっ?」
『お前のことだ。どうせ昼飯もとらずに鑑定を始めるつもりだろう?』
「……………」
この場に土門はいないのに、マリコは視線をそらす。

『飯と休みはちゃんと取れ。倒れでもしたら事件どころじゃなくなる。お前だけじゃない。橋口だって同じだ』
「…………………」
無言ということは、少しは堪えたか?と土門は畳み掛けた。
『分かったら、何でも食いたいものを言え。橋口にも適当に見繕って買っていく』
「……サンドイッチ。と、コーヒー」
マリコはぼそっと答える。
『分かった。後で届ける』
そう言うと、土門からの電話は切れた。


数十分後、蒲原経由で届けられた袋には、呂太への『幕の内弁当』とマリコには……。
サンドイッチとコーヒー、それにサラダにカットフルーツ、ヨーグルトにプリンまで入っていた。

「こんなに食べれないわよ……」
ぶつくさ言いながら、マリコはサンドイッチとコーヒー以外を冷蔵庫へとしまう。

「随分とさ、愛の大きさに差があるよねえ……」
渋い幕の内弁当を頬張りながら、僕もプリン食べたかったなぁ、と呂太は冷蔵庫を羨ましそうに見つめた。




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