ズルい男
お見合い当日。
土門の車でホテルに向かう道中、マリコの気分は沈んでいた。
やっぱり行きたくない……。
いつもより仕立ての良いスーツに身を包んだ土門は、なんだか立派に見える。
マリコのよく知る土門とは別人のようで、落ち着かない。
土門が着飾った女性をエスコートする姿を想像し、マリコは嘆息した。
一方の土門は、そんなマリコの様子を憂慮しながらも、改めてマリコの美しさに息を飲んだ。
淡い紫のワンピースは、マリコの表情を明るく、柔らかく見せている。
膝丈のスカートからすんなりとのぞく足が眩しく、土門は思わず目をそらした。
それにしても、風丘のセンスはさすがだと、土門は唸らずにはいられなかった。
ホテルに到着すると、土門はマリコに言った。
「ここからは別行動だ。俺はフロント奥のカフェで待ち合わせだ。お前はロビーで待っていろ」
「……やっぱり、帰っちゃ駄目かしら」
マリコは不安そうだ。
「頼む。少しの間でいい」
「………………先に行くわ」
ワンピースの裾を揺らしながら、マリコはゆっくりと歩きだした。
そんなマリコの背中に『すまん』と呟くと、土門は表情を引き締める。
今から、大仕事が待っているのだ。