ズルい男
それから数日は、ほぼ同じ日々の繰り返しだった。
土門の車で帰宅し、夕食は外か惣菜、デリバリーなどで済ませ、きちんと湯船に浸かって布団に入る。
土門はマリコの“しません宣言”を守り、手を出すことはなかった。
ただし、「おはようとおやすみの挨拶だけはさせろ!」とドスの効いた声で迫られ、それだけはマリコも認めた。
そして目覚めれば、土門お手製の朝食をいただき、また出勤する。
マリコは当初の心配をよそに、そんな毎日を楽しいと感じていた。
いつも隣に土門の気配があることは、心が安らぎ、よく食べ、よく眠ることができた。
しかし、同時に。
悩んでもいた。
自分で宣言したとはいえ、ここまで土門が約束を守るとは……正直、マリコは思っていなかった。
だから、逆に疑った。
万一のことを考えて、マリコに触れないのかもしれない。
……お見合いは本当なのかもしれない、と。
結局、噂の前日になっても、マリコに答えは出なかった。
この日帰宅した土門は、クリーニングされたスーツをクローゼットから取り出したり、シャツとネクタイを準備したりしていた。
「何してるの?」
「ん?明日の準備だ」
土門は何気ないことのように、答える。
「明日って……。やっぱり、あるのね、お見合い」
「……ああ」
「それならどうして、あんなこと言ったの?」
自然とマリコの声がきつくなる。
「あんなこと?」
「私に『付き合え』って」
「そうだ。まだ終わっていない。明日まできっちり付き合って、見極めろ」
土門はまっすぐにマリコを見つめる。
「お前も…見合いに来い」
「い、嫌よ!」
「……ほら」
土門はまるでマリコの返事など聞こえていないかのように、ベッドの奥から大きな紙袋を取り出し、マリコに渡した。
「なに?」
マリコは中をのぞく。
「これ!ワンピース!?」
中身を持ち上げてみれば、淡い紫のワンピースだった。
「明日の会場は、有名なホテルだからな。ドレスコードも考えて、風丘先生に選んでもらった」
「風丘先生が?」
「ああ。なんだか嬉々として引き受けてくれたぞ」
『そういうことなら、任せて。すっごく綺麗なマリコさんに仕立てるから♪』
土門はその時の早月を思い出し、苦笑した。
「でも土門さんのお見合いを見るなんて、私……」
普通に考えれば、酷い話だろう。
しかし、土門にはどうしてもマリコを連れて行きたい理由があった。
「酷な話なのは分かっている。だが、お前には最後まで付き合ってもらいたい。お前の協力が必要だ」
「協力?」
「いや……。とにかく、頼む」
そこまで言われては、さすがのマリコも否とは言えず。
マリコは渋々ながらも了承したのだった。