ズルい男
居酒屋で軽い夕食を済ませると、一端、車はマリコの家へと向かった。
「着いたぞ。支度してこい」
「……うん」
マリコは自分の部屋に入ると、ペタリと座り込んだ。
「どうしよう……」
これまでも“お泊まり”の経験はある。
でも5日も一緒になんて、自分にできるだろうか。
ご飯の準備とか、洗濯とか…どうしたらいいのかしら。
私がやるべきなのかしら……。
ぐるぐると考えているうちに、スマホが震えた。
『荷物が多いなら、取りに行くぞ?』
マリコは慌ててスーツケースに服を詰め込んだ。
マンションへ到着すると、土門はマリコのスーツケースをリビングに運び込んだ。
「榊、コーヒーをセットしてくれるか?」
「ええ」
そのまま土門は部屋を出ていった。
しばらくして土門が戻ると、ちょうどコーヒーが落ち切ったところだった。
「いい香りだな」
マリコはそれぞれのマグカップに注ぐと、土門に手渡す。
「ありがとう。今、風呂を準備している。沸いたら先に入れ」
「え?シャワーで良かったのに……」
「駄目だ。ちゃんと湯船に浸かれ。それと!今日はブラックじゃなく、せめてミルクを入れて飲め」
土門はマリコの手からカップを奪うと、ミルクを足し、再び戻した。
「土門さんは?」
「俺はいい」
「?」
マリコは土門の行動が読めず、首を傾げるばかりだった。
給湯器の合図を待って、マリコから先に風呂に入る。
入れ違いに浴室へ向かう土門に、先に寝室で待つよう言われたマリコは、素直に従った。
ベッドに入ると、土門を待つ間にも眠気が襲ってくる。
温まった体を、フワフワの毛布が優しく包む。
マリコは段々と瞼が重くなってきた……。
土門がベッドをのぞきこむと、すでにマリコは寝息を立てていた。
昼間に比べると、随分と顔色が良くなっている。
ふっ、と声を立てず笑った土門は、そっとマリコの隣に体を滑りこませた。
風呂上がりの体温でマリコの背中をくるむと、丸くなっていたマリコの四肢がゆっくりと伸びる。
そして背中のぬくもりを求めて、マリコは土門に体を擦りよせ、再び深い眠りにつくのだった。