ズルい男
マリコがその話を耳にしたのは、数日前のことだった。
『土門刑事が見合いをするらしい』
――――― どうせ噂でしょう…?
『相手はキャリア警視の娘らしい』
――――― まさかね……。
マリコは本気にはせず、聞き流していた。
しかし、その噂は収まるどころか、日が経つに連れどんどんと広まっていった。
尾ひれを何本も増やしながら……。
「つまり、こういうこと?」
洛北医大を訪れていたマリコは、早月との会話の中で、ぽろりと愚痴をこぼしてしまった。
それを目ざとく(耳ざとく?)拾い上げた早月は、根掘り葉掘り……マリコを質問攻めにした。
「5日後、土門さんが、キャリア警視の娘とお見合いをする。でも、そのことを土門さんはマリコさんに隠している…と」
「はい……」
「それとなく、土門さんに聞いてみたの?」
「…………」
「マリコさん?」
「私にできると思いますか?」
「でき……ないわね。直球質問よね、マリコさんなら」
早月は申し訳ないと思いながらも失笑した。
「私が聞いてあげてもいいけど……。こういうことは、他人が入ると大抵こじれるのよね~。どうする?」
こじれると言われては、頼むこともできない。
「自分で聞いてみます……」
早月は足取りの重いマリコを心配そうに見送った。
「マリコさん、大丈夫なのかしら?顔色も冴えないみたいだし……」